カナダ・トロントで本格江戸前寿司 新鮮信仰の海外で活躍する異色シェフ

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◆自由とリスペクトを求め海外に 職人も変わっていい
 齋藤氏は海外に出た理由を、リスペクトが欲しかったからとトロント・ライフ誌に話す。海外からの観光客とは違い、日本の社会的地位の高い客や裕福な客は寿司職人を下に見ることがあると感じ、客と対等の関係になりたいと思ったそうだ。実際に若い国際的なフーディ(食通)たちとは、共感しあえると感じているという。

 実は斎藤氏をトロントに誘ったのは、そんなフーディの一人で、カナダの実業家のウィリアム・チェン氏だった。ニューヨークの「鮨銀座おのでら」の客だったチェン氏は、斎藤氏と意気投合し、当時250万カナダドル(約2億円)をかけて作っていた寿司店を、斎藤氏に任せることにしたのだという。

 仕事から離れると、グッチやルイ・ヴィトンなどの高級ブランドに身を包むおしゃれな斎藤氏を、トロント・ライフ誌は、世界を渡り歩く寿司界の「儲かる男」だと評す。並外れたスキルを持った、他人のルールにしばられない今風のプロフェッショナルだと述べ、厳しい寿司職人のイメージとのギャップに興味を持ったようだ。

                                                                                                                 

◆寿司は新鮮に尽きる? 課題は客の先入観
 齋藤氏が握るのは、ネタを〆る、漬ける、煮る、あぶるなどして仕事を加えた江戸前寿司のみだ。寝かしてから使うネタは、柔らかくなり、旨味が出る。斎藤氏は、「寿司は科学だ」と述べ、嶋宮氏の下で修業した際に、偉大なすし職人は魚を仕入れて切るだけではなく、仕事をしてネタを進化させるという江戸前の深さを学んだという(トロント・ライフ誌)。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ニューヨークには数々の江戸前寿司店があるが、まだまだアメリカ人にはハードルが高いという。冷蔵庫のない時代から寿司のあった日本とは違い、アメリカで寿司が広まったのは1970年代から1980年代だ。寿司に関する著作を持つ、作家のトレバー・コーソン氏によれば、生魚を食べること自体が恐ろしいことで、とにかく新鮮さが重視されたという。ベテランのフードライターでも、熟成した寿司を食べるならガソリンスタンドの巻き寿司を買うという人もいまだにいるということで、フレッシュ信仰はなかなか止みそうにない。

 食通の集まるニューヨークでさえこのレベルであれば、トロントの「Sushi Masaki Saito」の人気のほうも心配なところだが、メニューは一人380カナダドル(約3.1万円)と500カナダドル(約4.1万円)のおまかせのみにもかかわらず、7月後半まで予約はいっぱいということだ。新世代の職人が握る伝統の江戸前寿司の成功を祈りたい。

Text by 山川 真智子