海外でカルト的人気の塚本晋也監督 最新作『斬、』は『鉄男』のイメージ変える?

Kathy Hutchins / Shutterstock.com

 日本兵の飢餓と孤独を描いた映画『野火』(15年)が内外で高く評価された塚本晋也監督。初の時代劇である新作『斬、(ざん)』が、ベネチア・トロント・釜山の各国際映画祭にて上映された。塚本監督の海外での知名度は高く、独自の世界観を確立したデビュー作『鉄男』(89年)以来、カルト的な人気を博している。日本とは対照的に、今作でもほとんどの海外報道が『鉄男』を意識しながら読み解いているようだ。

◆根強い欧米でのサイバーパンクの作風
『斬、』の舞台は幕末の江戸近郷。農家に居候する浪人・都築杢之進(池松壮亮)は隣家の市助(前田隆成)に剣の稽古をつけながら、市助の姉・ゆう(蒼井優)との静かな日々を過ごしている。だが、剣術家・澤村次郎左衛門(塚本晋也)が村に現れ、杢之進を誘い出そうとしたことで日常が崩れていく。澤村は、上洛する将軍の警護のため同志を探しにきたのだ。剣の腕を見込まれた杢之進は求めに応じるが、その後、騒動に巻き込まれる。

 監督によれば、人を斬ることに葛藤する杢之進を通して、暴力への懐疑や、時代劇の様式的ヒロイズムへの疑問を投げかけた作品だという(『斬、』公式HPより)。米映画専門メディア『The Film Stage』は、「”油や蒸気”から”草木”への変遷は奇妙に見えるかもしれないが」(9月17日、Josh Lewis)と、『鉄男』で認知されたサイバーパンク(テクノロジーをモチーフにしたSFジャンル)の作風に言及しつつ、新作を分析。手持ちカメラによる生々しい演出、世俗的な苦悩を持つ主人公といった塚本カラーを見てとり、杢之進の倫理観や心の変化を指摘した。

Text by 伊藤 春奈