「パン・オ・ショコラ」ではなく「ショコラティーヌ」! フランスで続くチョコパン戦争

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 フランスのパン屋さんに入れば必ず置かれている代表的菓子パンと言えば、バターをたっぷり使ったサクサク生地にチョコレートを巻き込んだ「パン・オ・ショコラ」だ。ところがフランス南西部では「ショコラティーン」の名で親しまれており、地元民は「パン・オ・ショコラ」と呼ぶことを拒否している。政治家による「ショコラティーン」復権運動も起きており、2世紀にわたるペストリー戦争が続いている。

◆名前は二つ ウィーン発、フランスの味
 ニュースサイト『The Local』によれば、「パン・オ・ショコラ」は、1830年代にオーストリアのパン職人、August Zangがパリに店を構え、チョコレートが入ったウィーン風のクロワッサン「Schokoladencroissant」を売ったのが始まりだという。もともと三日月型だったが、徐々に四角い「ショコラティーン」に進化を遂げた。

 ヴィエノワズリーと呼ばれるウィーン風菓子パンがフランス文化に浸透するにつれ、「ショコラティーン」には子供たちに人気のチョコレートパンの総称「パン・オ・ショコラ」が使われるようになった。ところが南西部では、フランス南部で話されるオック語の単語「chicolatina」と音が似ていることから、「ショコラティーン」の名が定着してしまったとされる。

◆譲れない南西部 伝統的呼称は誇り
 呼び方について、あるウェブサイトが11万人を対象にした調査を行ったところ、60%が「パン・オ・ショコラ」、40%が「ショコラティーン」と呼ぶと答えた。回答者の居住地域も同時に聞いており、「ショコラティーン」と答えた人は、圧倒的に南西部の住人だったという。(The Local)。

「ショコラティーン」派はその呼称を誇りとしており、昨年には南西部モントーバンの児童たちが、大統領に「ショコラティーン」をフランス語辞書に加えてほしいと手紙を出したことで話題になった。フランスでは農業、食品関係では法的に「パン・オ・ショコラ」の呼称が採用されており、テレグラフ紙によれば、南西部のガスコーニュ地方の国会議員が、「ショコラティーン」に「パン・オ・ショコラ」と同じステータスを与えるための改正案を提出したということだ。

 ガーディアン紙は、「パン・オ・ショコラ」対「ショコラティーン」論争は、首都と地方、現代と伝統、マクロン大統領の高級技術官僚と地方の右翼との戦いの象徴だと述べる。ガスコーニュの議員からは、「パン・オ・ショコラ」と呼ぶ気取ったパリの議員たちを打ち負かしてやりたいという声も聞かれる。もっともテレグラフ紙によれば、他にも多くの重要討議事項があり、この改正案が可決されることはなさそうだとしている。

◆ネットも注目 絶対に許されない呼び名は?
「パン・オ・ショコラ」対「ショコラティーン」は、ネット上でも話題となっている。テレグラフ紙によれば、15世紀にイギリスの支配者がアキテーヌ地方のパン屋に入り、「チョコレート・インの(=チョコの入った)パンを頼む」と言ったのが、「ショコラティーン」の語源だという説もあり、英語ルーツの呼称はフランス的ではないという批判もあったという(注:この説はチョコレートが欧州に伝わったのは1528年とされているため、現在では否定されている)。また、ガスコーニュの議員たちが、「ショコラティーン」を政争の具に利用していると言う意見もあった。

 ガーディアン紙のコメント欄には、様々な意見・感想が寄せられた。

・フランス語はパリ中心。地方は従うべき。
・パリの家庭では「パン・オ・ショコラ」はバゲットに板チョコ挟んだやつ。
・イタリアのやつは、中に「チョコレート・プリン」が入っているけど……。
・結局両方ともフランスじゃなくてオーストリアのパン。
・フランス人、この話題でまたストライキとかするのか……。
・自分にはどちらも全く同じものにしか見えない。なぜ名前にこだわる?

 ちなみにThe Localによれば、フランス全体の合意は、決して「チョコレート・クロワッサン」と呼ばないことだという。

Text by 山川 真智子