驚きだった是枝監督『万引き家族』のパルムドール MeTooの流れも審査員を圧倒

Arthur Mola / AP Photo

 第71回カンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞パルムドールを受賞した。下馬評では他のベテラン監督や女性監督の作品が先行しており、メディアにとっては予想外だったようだ。カンヌ参加7回目にして得た栄冠は、是枝監督の人間味あふれる卓越したストーリーテラーとしての才能が高く評価された結果といえる。

◆家族を描く監督が、家族を越えた絆を描く
「万引き家族」には、都会の片隅に生きる貧しい家族が登場する。高層マンションの谷間の小さな平屋に住むのは、治(リリー・フランキー)と妻の信代(安藤サクラ)、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)、そして家の持ち主である祖母の初枝(樹木希林)だ。足りない生活費を補うため、治は祥太とともに万引きをしている。信代、亜紀、初枝もそれぞれ、生活のためにきわどい行為に手を染めているが、家族は仲良く暮らしている。

                                                                                                                 

 ところがある日、治がゆり(佐々木みゆ)という少女を家に連れて帰る。ゆりの体に虐待された痕跡があることに気づいた信代は、ゆりを家族に迎え入れることにする。しかし、ある事件をきっかけに家族の絆が試されることになり、それぞれの驚くべき秘密が明らかになっていく。

 本作は、「誰も知らない」「そして父になる」などの作品で家族を描き続けてきた是枝監督が、「家族を越えた絆」を描くものだ。エンタメ業界誌バラエティによれば、レビューで高いスコアを獲得し、英映画誌スクリーン・インターナショナルによる調査でも、外国映画批評家の間ではトップに選ばれていたという。

◆#MeToo吹き荒れるカンヌで予想外の受賞
 是枝監督はこれまで数々の映画賞を受賞しているが、今回パルムドールを獲得すると予想した批評家は多くはなかった。ロサンゼルス・タイムズ紙の映画批評家、ジャスティン・チャン氏は、本命はレバノンの女性監督、ナディーン・ラバキー氏の「Capernaum」か、アメリカのスパイク・リー監督の「BlacKkKlansman」だったと述べている。

 エコノミスト誌も、「万引き家族」の受賞は驚きだったとし、その理由の一つとして、今年のカンヌでは女性監督にパルムドールを与えるべきという意見が多かったからだとしている。カンヌの約70年の歴史において、女性監督の受賞は1993年の『ピアノ・レッスン(ジェーン・カンピオン監督)』のみだ。今年は、カンヌの常連だった映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏のセクハラ告発から火が付いた#MeTooの影響もあり、カンヌに根深く浸み込んだ男女差別がこれまで以上に批判されていた。

 この傾向は、女優賞のプレゼンターを務めたイタリア人女優で監督のアーシア・アルジェントが、ステージ上でワインスタイン氏を激しく非難したことからもうかがえる。たとえ彼女のスピーチがなくとも、女優ケイト・ブランシェット率いる審査員たちは女性監督にパルムドールを授与するだろうと、多くの人が思ったに違いないとチャン氏は述べている。

◆これぞ是枝作品 審査員、批評家も納得
「万引き家族」の受賞に際し、ブランシェット審査委員長は、監督のビジョンと演技がうまく相互にかみ合っており、審査員たちが作品に圧倒されたと述べている。難しい決断ではあったが、正しい選択であったと説明している。北米での配給権を獲得したマグノリア・フィルムズのエイモン・ボウルズ社長は、「万引き家族」は是枝監督の最高傑作のひとつだと述べ、ある意味自分が今まで見たことのない家族の絆を扱った、素晴らしいストーリーだと絶賛している(バラエティ)。

 チャン氏は同作が受賞した理由は、#MeTooやトランプ大統領、ネットフリックス、セルフィーをめぐる喧騒に支配された今年のカンヌにおいて、審査員たちがみんなで存分に泣ける心の浄化を必要としたからかもしれないと述べる。それは仕方がないとして同氏は、是枝作品の素晴らしさの秘密は、世の中の問題に目をつむるのではなく、深くかかわることにより、見る側の感情に働きかける点だと指摘。決して無難な安全パイではなかったことを示唆している。いずれにしても、「万引き家族」は自分の芸術を完璧にコントロールする是枝監督の匠の仕事だと述べ、少しも妥協気味になることなく審査員をまとめることができる、実にまれな作品だと評している。

Text by 山川 真智子

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