マッカーサー基金、「天才賞」受賞者24人を発表 型破りなオペラ演出家ら

John D. and Catherine T., MacArthur Foundation / AP

【シカゴ・AP通信】 オペラをコンサートホールからロサンゼルスのストリートに持ち出した演出家、若い不法移民の窮状に人々の目を向けさせるきっかけとなった組織の主催者らが、今年のマッカーサー・フェロー、いわゆる“天才”賞の受賞者に選ばれた。

 シカゴに本部を置くマッカーサー基金は、今月11日、“天才”賞の受賞者24人を発表した。5年間にわたり分割で支払われる奨学金総額625,000ドルは、受賞者が自由に使うことができる。受賞者は、コンピューター科学から演劇、免疫学、写真にいたるまで、さまざまな分野で活躍している。

 同基金は、1981年から毎年、“その活動において非凡な独創性が認められ、今後一層期待できる”人々に奨学金を授与している。過去には、ミュージカル『ハミルトン』の脚本家リン=マニュエル・ミランダ氏、作家でジャーナリストのタナハシ・コーツ氏らが受賞している。申請手続きはなく、匿名の推薦者たちが基金に受賞者候補を推薦する。受賞者は賞の発表直前に電話で受賞を知らされる。

 オペラ演出家でプロデューサーのユヴァル・シャロン氏(37)にとって、受賞の知らせは「大変な衝撃で名誉」だった。基金からの電話を受けたときは、間違い電話だと思ったという。

「本当に感激しています」とシャロン氏。彼が設立し音楽監督を務める製作会社“The Industry”(インダストリー)は、ロサンゼルスを拠点に伝統にとらわれない空間と形式でオペラを製作している。2015年の作品では、観客とパフォーマーをリムジンに乗せロサンゼルス各地を巡り、その道中と行く先々でシンガーとミュージシャンがパフォーマンスを披露した。

 ラジオ番組『宇宙戦争』をアレンジした次回作では、劇場内のパフォーマンスを市街に放送するために廃止された第二次世界大戦期のサイレンを活用する予定だ。屋外に配置されたサイレンからパフォーマーたちの声が伝わり、往来や街の喧騒がコンサートホールに送り返される。

 オペラに抵抗があるという人にたくさん会うと話すシャロン氏だが、このような「独創的な試み」を通してそんな人たちの興味を最大限に引き出したいと願っている。

 移民の若者が率いるグループの全国ネットワーク“United We Dream”(団結して夢を見よう)の共同設立者で事務局長のクリスティーナ・ヒメネス・モレータ氏(33)も今年の受賞者だ。

 両親とともに幼いころエクアドルからアメリカへ不法入国したモレータ氏は、19歳のとき自身が密入国者であることを公表した。これにより彼女と家族は国外退去の危機に直面したが、同時に、移民に対する考え方を変える活動の最前線に立つこととなった。

 モレータ氏が採択に貢献した、若い不法移民を国外退去の恐怖から守る2012年の大統領令“Deferred Action for Childhood Arrivals”(若年移民に対する国外強制退去の延期措置)は、現在存続が危ぶまれている。

 この奨学金は、「立ち上がり、『私たちはここにいる。ここが私たちの母国。だから私たちは戦っている』と声をあげる勇気を持っていた」両親や他の移民たちが示したレジリエンスに対する評価だとモレータ氏は話す。

 受賞の喜びを真っ先に両親に伝えた。彼女が組織活動を始めたときには危惧していたが、今では一緒に行進や請願を行っている。

「ふたりともとても喜んでいます」とモレータ氏。

 社会の片隅で生きる人々を取り上げることで知られるシカゴ出身の写真家で教育者のダウード・ベイ氏も同賞を受賞した。1963年に4人の子どもたちが犠牲になったアラバマ州バーミンガムの教会爆破事件を追悼した“The Birmingham Project”(バーミンガム・プロジェクト)は、亡くなった子どもたちと同じ年齢のバーミンガム住民と彼女たちが生きていたらなっていたであろう年齢のバーミンガム住民の組写真だ。

 ほかの受賞者は、共産主義国の二重スパイを描いた小説『シンパサイザー』で2016年ピューリッツァー賞フィクション部門を受賞した作家で文化評論家のヴィエト・タン・ウェン氏、東アフリカ史研究家でミシガン大学教授のデレク・ピーターソン氏ら。

By SARA BURNETT
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP