「座り過ぎ」は脳に悪影響を与えるのか?

Iamkaoo99 / Shutterstock.com

著:Michael Wheeler西オーストラリア大学 PhD Candidate in Exercise Physiology)、Daniel Green西オーストラリア大学 Winthrop Professor)、David DunstanBaker Heart and Diabetes Institute, Professor and Laboratory Head of Physical Activity)、Paul Gardinerクイーンズランド大学 Postdoctoral Research Fellow in Healthy Ageing)

main

All kind of people / Shutterstock.com


 

 脳の力を使うことが必要とされる暮らしの中の多くの場面では、我々はまた、座りがちでもある。例えば、学校や職場で、座って試験を受けたり、クロスワードに集中したりするときだ。私たちは新しい論文で、長く座ることは、脳の「燃料供給」にどんな影響があるか、そして脳の健康にどんな悪い影響を及ぼすか、を探った。

 脳は、ブドウ糖を必要とする器官である。脳は全体重の約2%の重さだが、我々の安静時のエネルギー必要量の約20%を必要とする。そして脳の主要エネルギー源はブドウ糖である。もしこのエネルギーの供給が途絶えれば、脳細胞の働きが鈍り、脳細胞が損なわれることさえある。従って、脳細胞がブドウ糖を摂取することは、脳の健康に密接な関係があるとも言える。

 高い血糖値低い血糖値の両方に脳がさらされることで、認知症を発症する危険性が大きくなる。また、ブドウ糖変動性として知られる、血糖値の高低のレベルが切り替わることも重要である。なぜなら、血糖値の変動が大きくなると、認知機能の低下がより大きくなると関連付けられているからである。ここで分かるのは、ブドウ糖の厳密なコントロールが、脳の健康に欠かせないものだということである。

◆座り過ぎに伴う問題
 座り過ぎで、早く死ぬ危険性が増える。1日8時間以上座ることによる死亡の危険性の増加を帳消しにするためには、中強度~高強度の運動を1日60分から75分行うことが必要だという見積もりがある。

 これは大変な運動量である。少なくとも、現在最低限として成人に推奨されている運動量の2倍になる。ということは、座るのを減らせば、健康を増進させるための更なる戦略が手に入ると言えるかもしれない。

 座るのを減らして、その時間を軽いウオーキングに置き換えることで、食後のブドウ糖のコントロールを改善できることは、多様な研究によって証明されている。つまり、それにより血糖値が急上昇することや、低下し過ぎるのを防げるのである。その説明としては、稼働中の筋肉は、ブドウ糖を最適な範囲に保つのを助けるのと同時に、我々の器官の中のブドウ糖をある程度消費してくれるということがある。

main

Author provided/The Conversation, CC BY-ND


 

 ブドウ糖コントロールに関して言えば、午前中に中強度~高強度の運動を一区切りするより、軽度に身体を動かすことを1日の間に満遍なく行った方がいいということを示唆する証拠もある。たとえ軽度の身体活動の総エネルギー消費量が、より高度な活動のエネルギー消費量と等しいとしても。

 座る時間を減らすことの健康面での利点は、ブドウ糖コントロールが改善されるということで説明できそうである。しかし、脳の機能に対する効果はどうだろうか?

◆座る時間が長いことと脳の機能
 座り過ぎることが脳の機能に及ぼす効果を調べた研究では、混合の結果が出ている。休憩をとることによってあまり座り過ぎなかった日に比べると、座ってばかりの日は、記憶関連の作業にはあまりよい影響がないという考えがあるが、研究室の中での研究では、それについては正しいと支持できたり、また支持できなかったりしている。

main

Iamkaoo99 / Shutterstock.com


 

 多くの人を数年にわたって追跡した他のタイプの研究は、座る時間がより長くなることと、脳の機能が損なわれることの関連性を提示している。だが、異なる方法が多く使われるために、結論を導き出すのは難しい。一般的には、研究への参加者の自己申告に頼らない方法が好まれる。なぜなら、自己申告は常に正確とは限らないからである。しかし、これは実際に行うのは大変なことである。

 多大な認識力を必要とする課題を直接測ることとは別に、もうひとつのアプローチがある。それは、脳機能が改善されているのを理論的にサポートするような何かを、測ることである。 例えば、ニューメキシコハイランド大学の研究者たちは、歩行中に足に受ける衝撃が、血管を通して、脳の血流を増大させる圧力波を送っていることを証明した

 脳の血流は、ブドウ糖の脳への供給調節に関与している。そして、時間の経過とともに、脳の健康に影響を及ぼす可能性が高い。例えば、脳の血流の減少により、脳の機能がより速く低下することを我々は知っている。アルツハイマー病の場合がそれにあてはまる。

◆我々に何ができるのか?
 科学者たちにとっては、座ることが脳の機能に対していかに影響を及ぼすかは、研究上の課題である。入手可能な証拠に基づいて言えば、座るのを減らすことで、認知機能を改善するというよりむしろ、認知機能が低下するスピードを遅らせるということのようだ。

 科学者以外の人にとっては、脳の健康と座ることを結びつけるような決定的な研究は現在まだ無いが、ブドウ糖コントロールがうまくできないためによくない健康結果が出てくるのを防ぐためには、座る時間を減らすようにと、すでにアドバイスがなされている。ブドウ糖コントロールの改善を頭に置くと、座るのを減らすのは、特に食後が大切になる。

 昼食の後に散歩をし、夕食の後には皿を手で洗い、できるなら、往復の通勤時は活動的に動くこと。1日のうちで、座るのを減らす機会はたくさんある。そして、それによって健康にプラスになる可能性がとても高いのだから。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation