「音楽を習うと子供が利口になる」という証拠はない
著:Giovanni Sala(リバプール大学 Cognitive Psychology PhD Candidate)、Fernand Gobet(リバプール大学 Professor of Decision Making and Expertise)
音楽は人類の創造物の中でも、もっとも美しくパワフルなものの1つだ。多くの人が知るように、音楽には力がある。我々は音楽によって喜び、悲しみ、またリラックスし、興奮したりもする。さらに、人気バンドU2のリードシンガーのボノ(Bono)が「音楽は世界を変えることができる。なぜなら、音楽に人を変える力があるからだ」と言っているように、音楽にはパワフルな感情を引き出す力があることも広く知られている。しかし、これはどこまで真実なのだろうか?
我々は、子供に楽器を演奏させ、特定のジャンルの音楽を聴かせることで、単に音楽的な体験にとどまらない好影響が出ると期待しがちだ。子どもの音楽的才能を育てることは、他の分野でも子供の人生に役立ち、認知能力を向上させられると信じている親や教師および教育者は多い。
音楽教育が子供の認知能力や学力を高めると主張する研究もいくつか存在する。また、過去には、たとえば、歌や鍵盤演奏が子供の知性や学習に影響を与えるかどうかを調べる実験も行われている。
しかし、これらの実験結果はまちまちであるため、楽器演奏や音楽とのかかわりが子供の教育に影響を与えるか否か、を決定的に結論付けることはできていない。
このことを念頭に置き、我々は先日、子供と音楽の関係性に関する科学文献を再調査した。そして、明白な結論に達した。残念だが、音楽が認知力と学力に何らかの利益をもたらすことはまずない。