オニツカタイガーに外国人が殺到している理由 「半額」だけではない人気の背景

買い物客でにぎわう東京・渋谷のオニツカタイガー店舗(5月28日)|Michael Berlfein / Shutterstock.com

 日本発のファッションブランド「オニツカタイガー」の人気が、世界で急速に高まっている。東京の店舗には外国人観光客が詰めかけ、混雑時には入店のための整理券が配られることもある。

 人気は数字にも表れている。アシックスの2026年中間決算によると、オニツカタイガーの1〜6月の売上高は895億円に達し、前年同期比35.9%増となった。全地域で2桁以上の増収を記録している。

 1949年に誕生した日本の老舗ブランドが、なぜ今、世界の消費者を引きつけているのか。背景を探ると、円安による割安感だけではない複数の要因が重なっていることが分かる。

◆日本なら「半額」 外国人観光客がまとめ買い
 人気を直接押し上げている要因の一つが、訪日外国人による旺盛な需要だ。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が取材したアメリカからの旅行者一家は、日本旅行中にオニツカタイガーを4足購入した。価格は1足約100ドルで、アメリカで買う場合に想定される価格のおよそ半分だったという。

 東京ではオニツカタイガーの店舗が外国人観光客の立ち寄り先になっている。WSJによると、店外で順番を待つ客の姿も見られ、購入直後に街角で新しい靴へ履き替える人もいるという。

 こうした現象は昨年からすでに顕著だった。ブルームバーグが2025年に取材したロサンゼルス在住の男性は、日本で代表的モデル「MEXICO 66」を約95ドルで購入。同じ商品をオンラインで注文し、アメリカに配送すると2倍以上かかったと話している。

 ただ、現在の世界的な人気は「日本なら安く買える」という理由だけでは説明できない。実際、2026年上期には日本だけでなく全地域で売上高が2桁以上の増収となっている。

◆薄底ブームと「人とかぶらない」魅力
 近年のファッションでは、厚いソールを備えたボリューム感のあるスニーカーとは対照的な、細身で薄底のデザインが注目されている。オニツカタイガーを象徴する「MEXICO 66」などは、まさにこの流れに合致する。

 ブルームバーグの取材に対し、スニーカー再販サイトStockXの幹部は、アディダスの「サンバ」や「ガゼル」の人気によって薄底スニーカーが流行したことが、オニツカタイガーにも追い風になったと分析している。

 一方でオニツカタイガーは、アディダスほど街中にあふれていない。流行のシルエットでありながら、より人とかぶりにくい選択肢となり、2000年代前後のスタイルを再評価する「Y2K」ファッションの人気にも乗った。

 ロイターも、日本文化への世界的な関心に加え、ナイキやアディダスなど大手ブランドとは違うものを求める消費者の関心の高まりや、大手による市場支配への飽きが追い風になっているとの専門家の分析を紹介している。

◆『キル・ビル』からSNSへ 若い世代が再発見
 オニツカタイガーは新興ブランドではない。鬼塚喜八郎氏が1949年に神戸でスポーツシューズブランドとして創業した。後にナイキを創業するフィル・ナイト氏も1962年に神戸を訪れ、オニツカタイガーのアメリカでの販売に乗り出している。

 1977年にアシックスブランドへ統合された後、2002年にファッションブランドとして復刻した。現在、アシックスはオニツカタイガーを「日本発のラグジュアリーライフスタイルブランド」と位置づけている。

 世界での知名度を高めたきっかけの一つがポップカルチャーだ。ブルース・リー氏が着用したことで知られ、2003年公開の映画『キル・ビル Vol.1』では、ユマ・サーマン演じる主人公が黄色と黒のオニツカタイガーを着用した。

 そして現在、かつてのデザインがSNSを通じて若い世代に再発見されている。

 ブルームバーグによると、「MEXICO 66」や「TOKUTEN」を紹介する動画がSNS上に数多く投稿され、東京・銀座の旗艦店自体もインフルエンサーの撮影場所となっている。

 つまり、映画などによって築かれた知名度とレトロなデザインが、薄底やY2Kという新たな流行に重なり、SNS世代に改めて発見された格好だ。

◆売れても安売りしない 高級ブランド化を加速
 人気の拡大と並行して、高級ブランドとしての価値を高める戦略も進められている。

 ゴールドマン・サックス証券で小売・消費関連の調査を統括する河野祥氏はWSJに対し、アシックスはオニツカタイガーの人気をうまく管理してきたと評価する。店舗をむやみに増やさず、値引き販売を避けることで、ブランドの高級感を維持してきたという。

 オニツカタイガーは収益性も高い。アシックスの2026年中間決算によると、1〜6月のカテゴリー利益率は39.7%で、前年同期から0.6ポイント上昇した。

 スニーカーだけにとどまらない展開も進む。今年2月のミラノ・ファッションウィークでは、2026年秋冬コレクションとして、フォーマル、カジュアル、ワーク、スポーツを融合したウエアなどを発表した。ヴェルサーチェとのコラボレーションや香水事業などにも進出しており、英GQは、オニツカタイガーが単なるスニーカーブランドではなく、本格的なラグジュアリーブランドとして展開しようとしていると評している。

 アシックスはさらに6月、オニツカタイガー事業を100%子会社の「OT GROUP」に承継し、各国の事業もその傘下に再編すると発表した。2027年1月1日からOT GROUPをグローバル本社とする、より独立性の高い事業体制に移行する予定だ。

 同社は再編の目的について、意思決定を速め、オニツカタイガー独自の競争力を生み出すためだと説明している。目指すのは、さらなるブランド価値の向上と持続的な成長だ。

 アシックスの2025年通期決算によると、オニツカタイガーのカテゴリー利益は約515億円に達し、前年比58.7%増となった。

 円安による割安感と訪日客需要、薄底スニーカーやY2Kファッションの流行、SNSによる再発見、大手ブランドとは違うものを求める消費者心理。そして、人気が高まっても安売りせず、高級ブランドとして価値を高める戦略。こうした要素が重なり、長い歴史を持つ日本のブランドが今、世界のファッション市場で新たな存在感を放っている。

Text by 白石千尋