標的にされるロシア最大EC、損失1兆円超も 補償乏しく出店者は「八方塞がり」
ワイルドベリーズの倉庫へのドローン攻撃で立ち上る煙(7月24日、サンクトペテルブルク)|UGC via AP
7月から8月にかけて、ロシア最大のマーケットプレイス、ワイルドベリーズ(Wildberries)の倉庫がウクライナ軍によるドローン攻撃を次々と受けている。タンボフ州コトフスクとモスクワ近郊のエレクトロスタルの倉庫を標的として始まった攻撃は、その後も各地で続き、被害の程度は倉庫によって違うものの、8月20日時点で、ウクライナ国境近くのクラスノダールからウラル山脈東麓のエカテリンブルクまで、少なくとも24か所に及ぶ。被害を受けた保管面積は推計で合計150万平方メートルを超え、これはワイルドベリーズの倉庫容量全体の約27%に相当する。しかも今後、攻撃の範囲がシベリア以東にも広がる可能性は高い。
公表されている範囲では、攻撃による死亡者数は15人ほどだが、実際の死亡者はもっと多いとみられる。
◆理由は軍用品やプロパガンダ本の販売
ウクライナのゼレンスキー大統領は、この攻撃について、ロシア軍によるウクライナの民間インフラ攻撃への報復措置だと説明した。同社の物流センターは軍服や戦術装備、防弾チョッキや防護具、無線機、サーマルイメージャーや照準器、FPVドローン用の部品やモジュールなどを扱っているからだ。サイト上では軍関連の商品も多数販売されており、軍のロゴ入りTシャツなどは一般向けの商品とも言えるが、防弾チョッキなど、軍事用途を強く想起させる品も多い。
攻撃を受けた倉庫の一部には、書籍1100万冊も保管されていたが、ウクライナ軍はこれを、「反ウクライナ的およびプロパガンダ的な内容の書籍を販売していたため」と説明している。
◆ロシア最大級のマーケットプレイス
ロシアでネットショップを利用する場合、多くの人がまずワイルドベリーズとオゾンのサイトを開く。両者には日本におけるアマゾンや楽天のような存在感があり、情報コンサルティング会社インフォラインのデータによると、両者の小売市場でのシェアは2024年末には56.7%に達した。
利用者らはたいてい両サイトを比較して注文した後、両社がそれぞれ直接運営する注文受取所で商品を受け取る。ロシアでは都市部から離れた農村にも、両社の注文受取所があることが多く、商品の選択肢の面で農村と都市の格差は年々縮小している。
つまり現在のロシアでは地域を問わず、ネットショッピングが市民の日常生活の不可欠な一部となりつつあり、とくにワイルドベリーズは、出店者にとっては参入障壁が低く、消費者にとっては価格が全般的に安いことから、ロシアでの人気は高かった。そんな中で起きた今回の攻撃は、ショッキングな映像とともに、多くの市民に戦争をより身近に感じさせるきっかけになったとみられる。
◆限られた補償
8月13日付のフォーブス(ロシア版)は、ワイルドベリーズと出店者の損失が合わせて6000億~8000億ルーブル(1兆1500億円~1兆5400億円)に達する可能性があると報じている。
では、攻撃による損失はどう補償されるのか。商品の購入者については、大半が受け取り時に代金を支払うため、問題は少ない。倉庫で負傷した人や死亡者の遺族についても、ワイルドベリーズは「遺族にはそれぞれ200万ルーブル、重傷を負った従業員にはそれぞれ100万ルーブルを支給する」と発表している。
問題は被害額の6割以上を占めると言われる出店者側の損失だ。もともと出店者の保険加入率は低いが、今回のドローン攻撃は「不可抗力の災害、または天災」と同等と見なされ、保険の補償範囲に含まれない。
ワイルドベリーズ側は出店者らにも個別に補償をすると発表したが、その内容はわずかな現金や一定期間の倉庫保管料の割引、商品を他の倉庫へ移す際の輸送費の免除など、限定的なものだ。今後の対策としては、配送センターでの商品の在庫を最小限にし、分散させる措置や、物流センターのカザフスタンへの移転などが予定されている。
◆試練の中の小売業者
ドローン攻撃後、出店者の一部はライバルECサイトのオゾンに流れた。だが、オゾンも一定量の軍用品は扱っており、今後、攻撃対象にならないとは限らない。
そもそもロシアでオンライン取引に従事する法人および個人事業主の数は2026年に前年より14.3%増加したが、マーケットプレイスに限って言えば、手数料の上昇や競争激化により、昨年以来、利用者数は頭打ちだ。だが自社サイトを立ち上げての直接販売は、小規模小売業者にはハードルが高い。彼らにとって八方塞がりの状況は、今後も続くことだろう。




