日本未発売でも欧州で大人気 「ダチア」が売れる理由
ダチア・スプリング。後方はダチア・ダスター(2022年7月)|mares90 / Shutterstock.com
日本では馴染みのないブランドだが、欧州の街を歩けば「ダチア(Dacia)」の車を見かけない日はない。ダチアの発表によると、ダチアは2025年に69万7408台を販売し、欧州の個人向け乗用車販売でブランド別2位に浮上した。主力車種「サンデロ(Sandero)」は、2年連続で欧州で最も売れた乗用車となった。単なる「庶民派のリーズナブルな車」というだけでは説明のつかない支持の広がりが、そこにはある。
◆ルーマニア発、ルノー傘下で世界へ
ダチアは1966年、ルーマニアで国民向けの手頃で頑丈な車を供給する目的で設立され、1968年に自動車生産を開始した。社名は、現在のルーマニア一帯に存在した古代の地域「ダキア」に由来する。
1999年にルノー・グループ傘下に入り、新興国市場向けの低価格車「ロガン(Logan)」の開発・生産を担うブランドとして再建された。
◆ブレークスルーとなった初代ロガン
2004年に発売された初代「ロガン」は、飾り気のない実用セダンながら、新車としての最低限の快適性と信頼性を備えていた点が画期的だった。翌2005年には西欧市場にも投入され、「安かろう悪かろう」ではない選択肢として一気に浸透した。
また中東・北アフリカ地域をはじめとする新興国市場でも積極的に販売され、生産国のひとつであるモロッコでは、自家用車やタクシーとして広く普及し、「国民車」とも言えるほど身近な存在となっている。
2022年4月時点で、ダチアブランドのロガンとワゴン版のロガンMCVの累計生産台数は195万台に達している。西欧から新興国まで広く受け入れられたロガンの成功が、その後のダチアを支える土台となった。
◆車種を広げ、上の価格帯も狙う戦略
その後ダチアは、ロガンをベースにしたBセグメントハッチバックの「サンデロ(Sandero)」、SUVの「ダスター(Duster)」、多人数乗車に対応する「ジョガー(Jogger)」、電気自動車の「スプリング(Spring)」と着実にラインナップを拡充してきた。
さらに2025年には、CセグメントSUV「ビッグスター」を投入し、フルハイブリッド仕様も設定した。ダチアにとってはフラッグシップとなるが、フランスでの価格は2万4990ユーロ(約460万円)から。受注開始時には、フルハイブリッド仕様も2万9700ユーロ(約550万円)からに抑えられた。新車価格の高騰が続くなかでも、手の届きやすさを維持している。
こうした車種拡大を通じ、2030年までに売上高を2022年比で倍増させる計画だ。2030年の販売台数は約100万台を見込み、その約3分の1をCセグメントが占める。
◆物価高が後押しする「実用性重視」
ダチア人気の背景には、新車価格の高騰がある。ダチア最大の市場であるフランスでは、2019年から2025年にかけて新車の平均価格が29%上昇した一方、新車販売台数は26.3%減少した。
規制対応や電動化に加え、メーカーによる車種の高価格化や価格戦略、原材料費・人件費の上昇などで「手頃な新車」という選択肢が減る中、ダチアは顧客にとって本当に必要な機能に絞る「デザイン・トゥ・コスト」を徹底し、競合に対して約15%のコスト優位を目指している。
値引きにほとんど頼らない販売手法も相まって、ダチアは単なる格安ブランドから「コストパフォーマンスに優れたブランド」へと評価を変えつつある。
◆知人の愛車に見る「壊れない」という評判
筆者の知人はかつて、サンデロのクロスオーバー仕様「ステップウェイ(Stepway)」に8年ほど乗り、その間に約12万キロを走行した。ずっと屋外保管だったにもかかわらず、目立った不具合は一度もなく、塗装やブッシュ類もほとんど傷まなかったという。
自然吸気エンジン、5速マニュアル、ルノーの旧世代モデルを源流とするプラットフォームを採用した構成は、2014年の購入当時でも決して最新技術ではなかった。
だが知人いわく、機構がシンプルなうえ、長年の実用を通じて弱点が洗い出され、すでに対策が施された技術を多く採用していることが、かえって高い信頼性につながっていたという。電装部品を多く搭載した最新の車よりも気楽に乗れたとのことだった。
派手さよりも「壊れにくい」「余計な機能がない」という安心感。こうした実用本位の価値が、新車価格の上昇に直面する欧州の消費者が求めるものと重なり、ダチアの躍進を支えているのだろう。
装飾や過剰な装備を削ぎ落とし、必要な機能にコストを集中させる。その割り切りこそ、ダチアが単なる低価格ブランドではなく、合理的な選択肢として支持される理由なのかもしれない。




