豪州で日本のビール人気拡大 若年層が支持、現地メーカーも「ジャパニーズ・ライスラガー」開発

バーで提供されるアサヒスーパードライ(イメージ)|Mirko Kuzmanovic / Shutterstock.com

 オーストラリアで、日本のラガービールの人気が高まっている。酒販大手エンデバー・グループがまとめた2026年版ビール市場レポートによると、若年層を中心に日本のビールブランドが支持を広げ、現地メーカーも「ジャパニーズ・ライスラガー」など日本スタイルを取り入れたビールの開発を進めている。

 同レポートは、この変化を「日本ビールの台頭」と表現している。インターナショナルビールカテゴリーでは、日本がメキシコを抜き、原産国別で首位となった。日本のビールの伸びはニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、ビクトリア州で特に目立つ。一方、メキシコビールは全国では2位となったものの、北部準州、南オーストラリア州、西オーストラリア州ではなお強い支持を保っている。

 ただし、これは貿易統計上の「輸入元」の話ではない。エンデバー・グループの小売販売データに基づく、オーストラリア国内での消費動向だ。世界銀行の貿易統計では、2025年のオーストラリアのビール輸入額で日本は首位ではない。今回の焦点は、日本からどれだけビールが輸入されたかではなく、オーストラリアの消費者が日本のラガービールを一つのスタイルとして受け入れるようになっている点にある。

◆若年層が支える日本のラガービール人気
 成長を支えている代表的なブランドが、アサヒスーパードライだ。エンデバー・グループの同レポート「State of the Hops」では、アサヒスーパードライはZ世代と若年ミレニアル世代でビール市場の成長への寄与度が2位、年長ミレニアル世代でも3位となった。

 同レポートは、アサヒスーパードライが日本のラガービール人気の拡大を支えたブランドだと分析する。背景には、若い消費者が求める「プレミアムで、仲間と楽しめる選択肢」という需要があるという。

 日本のラガービール人気は、オーストラリアのビール市場全体の変化とも重なる。同レポートによると、同国のビール市場では従来のフルストレングスビールの比重が下がり、ミッドストレングス、低糖質、ノンアルコールなど、現代的なライフスタイルに合うカテゴリーが伸びている。ビール市場は、単に多く飲むものから、場面や気分に応じて選ぶものへと変わりつつある。

◆旅行ブームも追い風に
 日本のラガービール人気の背景には、日本旅行ブームもある。オーストラリア放送協会(ABC)は2月、オーストラリアから日本への旅行者が増え、日本で飲んだビールを帰国後も求める消費者が増えていると報じた。アサヒはABCに対し、オーストラリアでのスーパードライの売上が2020年以降40%増えたと説明している。

 ABCは、日本旅行の増加に加え、ビールの好みにも変化が起きていると伝えている。メルボルン北部のブティック酒販店「Sessions at Arden」の共同オーナー、トルーマン・ン氏は、ホップの苦味や香りが強いIPAから、よりすっきりとした飲み口の日本のラガービールへと消費者の嗜好が移りつつあると説明している。

 酒類業界紙『ドリンク・トレード』も、日本ビール人気について、旅行ブームだけでなく、プレミアム化志向や流通網の強化が背景にあると指摘している。市場調査会社サーカナの分析として、日本ビールはビールカテゴリー全体よりも速いペースで成長しており、インターナショナルビール内でのシェアも拡大しているという。

◆現地メーカーも「ジャパニーズ・ライスラガー」
 注目すべきは、日本のラガービール人気が輸入品や日本ブランドの販売にとどまっていないことだ。

 「State of the Hops」は、インターナショナルビール人気の高まりが、オーストラリア国内の醸造所による商品開発を促していると指摘する。現地メーカーは「ジャパニーズ・ライスラガー」や、メキシカンスタイルのラガーである「バルター・セルベサ(Balter Cerveza)」など、海外のビールスタイルを再現した商品を造り始めている。

 ライスラガーは、麦芽に加えて米を副原料として使うラガーだ。軽く、きれがあり、食事に合わせやすい味わいになりやすい。日本では大手ビールで一般的な製法の一つだが、海外では「日本らしいビールスタイル」として認識されることがある。

 同レポートは、オーストラリアの醸造所がこうした海外の味を取り入れることで、世界的なビール文化の盛り上がりを活用しながら、生産は国内にとどめていると分析する。つまり、日本のラガービールの人気は、単に日本ブランドが売れているという段階を超え、現地メーカーの商品開発にも影響を与え始めている。

◆輸入ではなく、スタイルとして広がる
 オーストラリア市場では、アサヒグループとキリンホールディングスも大きな存在感を持つ。アサヒは2020年に豪州大手カールトン&ユナイテッドブルワリーズを買収し、キリンホールディングスは2009年に豪州ビール大手ライオン・ネイサン(現ライオン)を買収した。現在は両社とも現地生産を手掛けており、日本企業は輸出だけでなく、豪州ビール市場そのものに深く関わっている。

 そのため、今回の動きは「日本からのビール輸出が増えた」という単純な話ではない。オーストラリアの消費者が、日本のラガービールをプレミアムで飲みやすいビールとして受け入れ、さらに現地の醸造所がそのスタイルを取り込む段階に入っている、という構図だ。

 かつてクラフトビール市場では、IPAやヘイジーIPAのような個性的なスタイルが存在感を高めた。だが今、オーストラリアでは、軽やかで食事にも合わせやすい日本のラガービールが若年層を中心に広がっている。日本のラガービールは、輸入商品としてだけでなく、一つのビールスタイルとしてオーストラリア市場に根付き始めている。

Text by 白石千尋