トップAI人材、年収14億円超 人材争奪戦で業界の報酬はどうなっているのか?
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AI人材をめぐる争奪戦が激しさを増すなか、米IT大手メタが米オープンAIなどの有力研究者に対し、破格の報酬を提示していることが明らかになった。4年間で最大3億ドル(約430億円)という前例のない金額は、AI開発競争の過熱ぶりを象徴している。
◆4年で430億円の衝撃
AI開発で一歩リードするため、米テック企業各社は優秀な人材の獲得にしのぎを削っている。米ワイアード誌によると、マーク・ザッカーバーグ率いるメタは、「人間を超える知能」を持つAIの開発を目指して新設したスーパーインテリジェンス研究所の人材確保に向け、トップクラスの研究者に対し、4年間で最大3億ドル、初年度だけで1億ドル超(約140億円)という報酬パッケージを提示したという。
もちろん、金額には大きな差がある。英フィナンシャル・タイムズ紙は、一部のトップAIエンジニアが年間1000万ドル(約14億円)以上を稼ぐ一方で、一般的な報酬パッケージは300万~700万ドル(約4億~10億円)程度と伝えている。それでも一般的な職種と比べれば桁違いで、2022年と比べても報酬は約5割上昇している。AI人材に特化した人材紹介会社リビエラ・パートナーズの関係者も、「ここ数年の競争は異常なほど激しくなっている」と話している。
◆引き抜きは「家に侵入されたよう」 オープンAIが感じる危機感
こうした破格の条件で人材を引き抜こうとする動きに、対象となる企業側は強い警戒感を示している。ワイアード誌によれば、メタはオープンAIのスタッフに対して少なくとも10件もの高額オファーを出していたという。オープンAIの研究責任者マーク・チェン氏は社内メモの中で、「まるで誰かが私たちの家に侵入して、何かを盗んでいったようだ」と、相次ぐ人材流出への強い危機感をにじませた。
一方、フィナンシャル・タイムズ紙によると、メタは自社の大規模言語モデル「Llama 4」が期待を下回ったとの評価を受け、開発体制の立て直しを急いでいるという。同社はすでにデータラベリング大手のスケールAIに150億ドル(約2兆円)を投資し、共同創業者のアレクサンドル・ワン氏を採用。スーパーインテリジェンス開発チームの構築を進めている。AI製品の存在感ではオープンAIに後れを取っているだけに、メタとしては優秀な人材を確保し、巻き返しを図りたい考えだ。
◆同じエンジニアでも、年収に2倍以上の差
人材争奪戦の激化により、AI業界内の給与格差が急速に拡大している。ニュースレター「The Pragmatic Engineer」と給与情報サイト「levels.fyi」の調査によると、2022年から2025年にかけてアメリカで経験5年以上のソフトウェア開発者の給与を分析した結果、トップ層にはオープンAIなどのエリートAIラボや、機械学習に大きく投資するヘッジファンドがあり、この層の中央値は年40万ドル(約5800万円)を超える。その一段下にはアルファベットやマイクロソフトといったテック大手が位置し、中央値は約30万ドル(約4300万円)だった。一方、多くのその他企業では中央値が約18万ドル(約2600万円)にとどまっている。(英エコノミスト誌)
とはいえ、どの企業も無限に人件費を増やせるわけではない。人件費の高騰が続くアメリカを避け、一部の企業は採用拠点を欧州に移しつつある。オープンソースAIを手がけるハギング・フェイスの共同創業者は、フィナンシャル・タイムズ紙の取材に「サンフランシスコ・ベイエリアでエンジニアを1人雇う費用で、ヨーロッパなら同レベルの人材を3~4人雇える」と語っている。
海外拠点の整備には時間がかかるため、当面は、引き抜き競争によるAI人材の報酬高騰が続く見通しだ。