マツダ、米国での記録破りを可能にした「大きな変化」
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マツダがアメリカ市場で、38年ぶりに販売記録を塗り替えた。成功の理由は、北米市場でのブランド戦略の転換だ。大規模な改革を通じ、マツダは「プレミアム」ブランドへと変貌を遂げつつある。
◆史上最高の販売実績
マツダは2024年、アメリカ市場で42万4382台を販売し、過去最高の販売実績を達成した。1986年に記録した37万9883台を約4万5000台上回る。米USニューズ&ワールド・レポート誌は、前年比16.8%増の成長率となり、アメリカ市場のどのブランドよりも際立っていたと分析する。
成功の理由について、米国事業責任者のトム・ドネリー氏がUSニューズ&ワールド・レポート誌に詳しく語っている。要因の一つは、SUVへの注力だという。現在、アメリカで提供する12モデルのうち8モデルがSUVとなっており、この戦略的シフトがアメリカの消費者ニーズと合致した形だ。
かつてマツダといえば、スポーティーな乗り味を強調した「Zoom Zoom(ズーム・ズーム)」のキャッチフレーズで知られていたが、現在はそのイメージからの脱却を図っている。固定化されたイメージを変えるべく、新たなブランド戦略の構築に取り組んでいる。
◆小売環境を改革する「Big Changes」
こうしたブランド刷新を支えるのが、「Retail Evolution(小売の進化)」と呼ばれる大規模な販売店改革だ。ドネリー氏は「ディーラーパートナーとともに、過去7年間で20億ドル(約3000億円)以上を投資し、小売環境を真に変革してきた」と語る。
2015年頃までは、マツダの販売店はさまざまな看板やイメージが混在し、一貫した印象がなかった。しかし改革により、新たな店舗デザインはガラスを多用したオープンな「スタジオのような」空間へと生まれ変わった。ドネリー氏はこれを「より開放的で魅力的」と表現している。閉鎖的なオフィススペースを減らし、店内の視界を遮らないデザインとした。
改革は顧客体験にも及んでいる。サービス面では、コロナ禍に導入されたビデオ検査技術を現在も積極的に活用している。修理が必要な場合、アドバイザーが顧客に対し、必要な作業の詳細をビデオで見せ、事前に承認を得る。
「どことなく謎めいた、『後で説明して500ドル(約7万5000円)ほど請求する』という状況」を避けたことで、顧客満足度が大幅に向上したという。ガラス張りになったのはショールームだけでなかったというわけだ。
◆プレミアムブランドへの移行
こうした小売改革と並行して、マツダは「traditional mainstream premium(伝統的な主流プレミアム)」を掲げる。モーター・ワン誌によると、マツダの戦略的計画・統合プロジェクトマネージャーのジョン・レバレット氏は「必ずしも主流セグメントを放棄するわけではない」としながらも、「CX-70やCX-90などの上級モデルを拡大したい」と述べている。
「プレミアム」は必ずしもいわゆる「高級車」を意味しないという。「価格よりも、車の価値や提供するものが重要だ。適正な価格で、最も安くも最も高くもないが、私たちが車に込めているものには十分な価値がある」という考え方だという。
販売戦略の面では、新しいブランドキャンペーン「Move and be moved(動く、そして心動く)」も成果を上げている。スポーティな走りだけでなく、より志向性の高いトーンとイメージを打ち出すものだ。USニューズ&ワールド・レポートによると、導入後わずか数ヶ月でブランド好感度スコアは2桁改善し、購入意向も10%台後半で向上したという。古い「ズーム・ズーム」のイメージから脱却しつつも、マツダの走りの良さを感じさせる、バランスの取れた訴求メッセージとなっている。
イメージ戦略から顧客対応まで多方面からの改善で、マツダはアメリカでの存在感を一躍増している。