評判に傷も…インフルエンサー・マーケティングの落とし穴 最新研究で明らかに

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 インフルエンサー・マーケティングは、ソーシャルメディアのインフルエンサーによる商品紹介・推薦を利用したマーケティング形態だ。消費者の購買行動に多大な影響を与えるため、企業がこぞって利用している。しかし、最近発表された研究成果では、この手法が消費者に悪影響を及ぼし、インフルエンサー側にも不利益をもたらすことがあると報告されている。

◆市場規模は過去最高に 影響力絶大
 独調査会社スタティスタによれば、世界のインフルエンサー・マーケティングの市場規模は2020年から3倍以上に拡大。2025年には、過去最大の約330億ドル(約4.9兆円)に達すると推定されている。

 最近の調査によれば、インフルエンサー・マーケティングにおいてアメリカで最も人気のプラットフォームはインスタグラムで、TikTokのような動画系のものも人気だという。インフルエンサー・マーケティングは、ブランドの知名度を高め、エンゲージメントを促進するとされる。さらに何百万人ものユーザーの購買決定に影響を与えることを考えれば、企業のインフルエンサー・マーケティングへの支出が今後さらに加速することは当然だとスタティスタは述べている。

◆消費者にリスクも インフルエンサーにも不利益
 しかし、インフルエンサー・マーケティングが盛んになるにつれ、その悪影響が明らかになってきた。米ポーツマス大学の研究では、インフルエンサーによる「危険な製品の推奨」「誤情報の拡散」「非現実的な美の基準の提示」「他者との比較文化の醸成」「非倫理的な行為への関与」「広範なデータ収集と共有によるプライバシーに関する懸念」といった問題点が指摘されている。

 一方、ハーバード大学の研究者たちの調査では、インフルエンサー・マーケティングが、インフルエンサー側にもリスクをもたらすことが分かった。インフルエンサーがスポンサーつき動画を投稿した場合、購読者数はオーガニックコンテンツ(スポンサーなしの投稿)に比べ、平均0.19%減少するという。この数字は小さく見えるが、数百万人のフォロワーを持つインフルエンサーにとっては、わずかな数字も収入や評判に大きな影響をもたらす可能性がある。

 研究者たちは、これを「評判を燃やす効果」と呼んでおり、インフルエンサーが自分のスタイルと合わないコンテンツを投稿すると、フォロワーからの信頼が低下すると説明している。

◆対策必須 利害関係者が行動を
 ポーツマス大学の研究は、インフルエンサー・マーケティングが消費者に与えるリスクを軽減するために、より厳しい監視、透明性の向上、そして倫理的なマーケティング戦略を、政策立案者とマーケター側に求めている。

 ハーバード大学の研究は、マーケターがどのインフルエンサーに商品紹介を依頼するかにも改めるべき点があるとする。フォロワー数だけを見るのでは不十分だと指摘。消費者の信頼を損なうことなく売り上げを増やすパートナーシップを構築するため、オーディエンスの信頼とインフルエンサーのコンテンツとの整合性を考慮する必要があるとした。もし消費者がインフルエンサーを信頼できないなら、マーケティングの努力は望ましい結果につながらないかもしれないと研究の共著者、メンジエ・チェン氏は述べている。

 さらに、ブランドだけでなく、ソーシャルメディアのプラットフォームも利害関係者だと研究者たちは指摘。ユーザーを増やしてくれる人気インフルエンサーの恩恵を受けているため、スポンサーつきコンテンツとオーガニックコンテンツのバランスを取るようインフルエンサーに促すべきだとしている。

Text by 山川 真智子