「30歳未満の30人」が転落するパターンとは 教育AI起業家、詐欺罪で起訴

裁判所を出るキャロライン・エリソン(23年10月)|Eduardo Munoz Alvarez / AP Photo

 オールヒア・エデュケーション(AllHere Education、以下オールヒア)の創設者ジョアンナ・スミス・グリフィン(Joanna Smith-Griffin)が、詐欺などの疑いで米サウスカロライナ州にて逮捕、起訴された。米フォーブス誌の恒例企画「30歳未満の30人」に選ばれたことのある若手起業家の逮捕がパターン化しつつある。

◆投資家をだました罪で起訴
 11月19日、ニューヨーク州南部地区連邦地検と連邦捜査局(FBI)は、スミス・グリフィンがオールヒアに関連して投資家をだましたとして、証券詐欺、通信詐欺、個人情報窃盗の罪で逮捕、起訴したと発表した。2020年11月ごろのシリーズ資金調達に始まり、2024年6月の会社破綻までの間、同氏はオールヒアの投資家に対して収益、顧客ベース、現金の数字を偽っていたとされる。たとえば、2020年の実際の売上高は1.1万ドルだったとされるが、投資家に対しては約370万ドルであると伝えていた。虚偽の数字を使って1000万ドル近くの資金調達を成功させていた。

 さらに、不正に得た資金の一部を自宅の頭金や結婚費用に充てた。また、投資家が知らされていた財務状況と実際の財務状況が一致しないことを偶然発見した際には、偽のメールアカウントを作成するなどし、犯罪の隠蔽を試みた。証券詐欺、通信詐欺にはそれぞれ最長20年の懲役が科される。

 オールヒアは、AI(人工知能)を活用したチャットやメッセージサービスを提供し、学区や家庭のコミュニケーションを円滑にすることで不登校などの問題を解消すること売りにしていた。同社は現在、連邦破産法第7条の適用を受け、従業員は解雇され、裁判所が任命した破産管財人の管理下にある。

◆資金調達と詐欺の境界線
 今回、逮捕起訴されたスミス・グリフィンは、2021年には米フォーブス誌の恒例企画「30歳未満の30人」で、教育部門における注目の若手起業家として取り上げられたことのある人物。「30歳未満の30人」が詐欺で逮捕されるという事例が一定数存在するため、アメリカではこのパターンが注目され、フォーブス誌のこのリストが詐欺や監獄への「供給ルート(pipeline)」になっているというような表現も使われている。

 仮想通貨取引所FTXの創業者サム・バンクマン・フリードや、同社の関連会社の最高経営責任者(CEO)キャロライン・エリソン、エイズ治療薬ダラプリムの値段を55倍に釣り上げ、証券詐欺などの罪で有罪となったマーティン・シュクレリなどが一例。リストには上がっていないが「30歳未満の30人」の会議に登壇した、血液検査ベンチャー、セラノス創業者のエリザベス・ホームズも詐欺罪で禁錮刑を言い渡された。

 テック起業家のクリス・バッキは2023年、フォーブス誌の「30歳未満の30人」に選ばれた起業家たちは全体で53億ドル以上の資金調達(同誌算出)をしたが、一方で185億ドル以上(バッキによる概算)に値する詐欺で逮捕されているとツイートした。もちろんフォーブス誌のリスト自体に問題があるわけではない。しかし、その背後にある、つまり成功のビジョンや若さをあがめるような精神論には問題があるとの指摘もある。ビジョンを売って資金調達を成功させることは決して詐欺ではないが、そこには紙一重のリスクが存在している。

Text by MAKI NAKATA