4年前に「TikTok禁止」のインドでは何が起きたのか

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 大人気の中国製アプリ「TikTok(ティックトック)」は、アメリカからの撤退を余儀なくされる可能性がある。動画共有アプリを禁止する法案が議会で可決され、大統領署名を経て成立した。

 インドでは、大人気だった中国の動画共有アプリTikTokが、4年近く前に禁止された。その時何が起きたのか。

◆インドがTikTokを禁止した理由
 2020年6月、インドのTikTokユーザーは、中国のインターネット企業バイトダンスが運営するこのアプリとお別れすることになった。インド政府は、印中国境での軍事衝突の後、TikTokを含む数十個の中国製アプリを突然禁止した。この衝突では、インド兵士20人と中国兵士4人が死亡し、両国の関係は過去最低レベルにまで悪化した。

 インド政府は、プライバシー上の懸念を理由に挙げ、中国アプリがインドの主権と安全保障に対する脅威になると述べた。

 遠隔地のカラコラム山脈の国境地域での致命的な衝突以来、インドでは中国製品のボイコットを求める抗議活動が行われており、この禁止の動きはインド国内で広く支持された。

 デジタル政策の専門家でテック系ウェブサイト『MediaNama』の創設者であるニキル・パフワ氏は、「この禁止に至るまでには世論の高まりがあり、『軍事的な対立状態にある中国企業をインドで事業展開させるのはおかしい』というものでした」と述べている。

 パフワ氏は、禁止の数ヶ月前には、インドが中国企業からの投資も制限していたとする。「TikTokだけの話ではありません。現在までにインドは500を超える中国アプリを禁止しています」

◆ユーザーとクリエイターの反応
 当時、インドには約2億人のTikTokユーザーがいた。また、同社は数千人のインド人を雇用していた。

 しかし、TikTokユーザーやコンテンツクリエイターは、アプリが禁止されたことで移行先を探す必要に迫られた。そして、この禁止によって、巨額の市場を独占する絶好の機会がほかの企業に与えられた。数ヶ月以内に、グーグルはYouTubeショートを、インスタグラムはリール機能をリリースした。どちらも、TikTokが得意としていたショート形式の動画作成を模倣したものだ。

 パフワ氏は「TikTokが空けた市場のほとんどを彼らが獲得することになりました」と述べる。

 インドでは、TikTokのコンテンツは極めてローカルなもので、ほかとは一線を画していた。それはたとえばレンガを敷きながら芸を披露するといったような、インドの地方都市、いわゆるティア2やティア3都市の人々の生活を垣間見ることができる動画などだった。

 しかし、ほとんどのコンテンツクリエイターとユーザーは、禁止から4年経った現在、ほかのプラットフォームに移行している。

 ウィニー・サングマさんは、TikTokで動画を投稿して少し稼ぐことができたことを懐かしんでいる。しかし、禁止後にインスタグラムに移り、現在は1万5千人のフォロワーを抱えている。移行自体は比較的スムーズだったという。

 サングマさんは「インスタグラムでもフォロワーを増やし、収益も得られるようになりましたが、以前のTikTokのような体験ではありません」と話す。

 頻繁にTikTokを利用していたラジブ・ダッタさんも禁止後にインスタグラムに移った。「特に問題はありませんでした」と言う。

◆インドの禁止とアメリカの禁止の違い
 アメリカでは、TikTokを禁止する法案が議会で可決され、大統領の署名を経て成立した。

 この法案は、TikTokの親会社であるバイトダンスに、9ヶ月以内の売却を義務付けている。売却が進行中の場合はさらに3ヶ月延長される。これが行われなければ、TikTokは禁止される。実際に禁止されるまでには少なくとも1年はかかるが、裁判などによりさらに長引く可能性もある。

 インドでの2020年の禁止は迅速だった。TikTokやそのほかの禁止アプリの企業は、プライバシーとセキュリティに関する質問に回答する時間を与えられたが、2021年1月までに恒久的な禁止となった。

 しかし、アメリカの場合は状況が異なる、とパフワ氏は言う。「TikTokはインドでは裁判を選択しませんでした。しかし、アメリカは彼らにとってより大きな収益市場です。また、アメリカの憲法修正第1条は表現の自由を強く保障しているため、アメリカがインドのように簡単に禁止を行うことはできません」と、アメリカ合衆国憲法における表現の自由の権利に触れて述べた。

 パフワ氏は、中国のアプリが世界中で普及するにつれ、アプリが国家安全保障上のリスクとなる可能性があるため、各国は中国への依存度を調べ、それを減らす方法について検討する必要があると述べている。

 このアプリはパキスタン、ネパール、アフガニスタンでも禁止されており、ヨーロッパの多くの国でも規制されている。

 パフワ氏は「中国の情報法とサイバーセキュリティ法は、中国のアプリが自国の安全のために機能することを許容しています。これが不信感を生む原因で、他国にとっては国家安全保障上のリスクとなります」と述べる。「民主主義国家と、企業が国家の延長線として行動する可能性のある権威主義国家では、異なるルールが適用されるべきでしょう」

By KRUTIKA PATHI Associated Press

Text by AP