ナチス容認のサブスタックに人気ジャーナリストが決別 プラットフォームの投稿監視問題
◆サブスタックとの決別の理由
サブスタックでの最後の投稿で、ニュートンはサブスタックをやめることにした理由を説明している。まず前提として、ニュートンはそもそもサブスタックを永遠に使い続けるということは考えていなかったが、設定が非常に簡便で迅速であったこと、ロゴデザイン費用や1年間の健康保険補助金、法律関連のサポートを得られること、共同創業者との個人的なつながりを感じたことなどから、サブスタックを始めたと語る。サブスタックを活用したことで、プラットフォーマーの無料の読者の数は当初の2万4000人から17万人以上にまで増加した。
同時にこの間、サブスタックは、その自由放任主義的なコンテンツモデレーション(投稿監視)の方針が批判の対象となってきた。また、ジャーナリストや独立メディアブランドといった個々の出版主体のコミュニティやネットワークの価値を尊重する方針から離れ、昨今はよりSNS的に情報を拡散させるといった機能を拡張させてきた。具体的には、おすすめ機能やツイッター的な拡散力のあるノートといった短い情報の投稿機能などだ。新機能のおかげか、プラットフォーマーも昨年だけで7万人以上の無料読者を獲得したという。拡散力が高いということは、デマや暴力を促進するような呼びかけも広まっていくリスクが高いということでもある。
こうした文脈があるなか、プラットフォーマーにとってサービス利用中止の判断が決定的となったのが、ナチス関連の危険な思想がサブスタック上で放置状態にあり、サブスタック側が適切な方針を打ち出さなかったことにある。ニュートンは、ナチスがサブスタックを使っていることを報じた昨年11月に公開されたアトランティックの記事などを踏まえ、独自に調査を行ったうえで、1930年代のナチスドイツを明確に支持し、ユダヤ人などに対する攻撃を呼びかけるような発信を行っている7つの出版物を洗い出した。最終的にはこのうち6つがサブスタック上からは削除されたが、サブスタックの方針として、ナチスやホロコーストを明確に支持するような内容を禁じるということは示されなかった。
サブスタックの利用規約内のヘイトスピーチなどに関する該当箇所には、暴力を扇動するコンテンツの公開やイニシアティブへの資金提供には使用不可であることが明記されており、「違反行為には、人種、民族、国籍、宗教、性別、性自認、性的指向、年齢、障害、または病状に基づく、身体的危害を与える信憑性(しんぴょうせい)のある脅迫が含まれる」と記載されてはいるが、ナチスに関しての明確な表記はない。このことを重く捉え、ニュートンはサブスタックを離れ、非営利団体が運営するオープンソースの発行プラットフォーム、ゴースト(Ghost)への移行を決断した。
この一連の動きに対して、ガーディアンやヴァージは、サブスタックは、プラットフォーマーよりもナチスを選んだ「ナチス派」などとしてセンセーショナルに報道している。サブスタックは、表現の自由を尊重したとも捉えられるが、プラットフォームがSNS化し、デマや暴力的な思想が拡散されやすい状況が作られることに関しては、メディアも警戒感を示している。SNSやメディアプラットフォーム利用者にとっては、プラットフォームを健全な場として維持するために働きかけることと同時に、プラットフォームに依存しすぎない状況を作る必要がありそうだ。世界各地で戦争が続いていること、今年はアメリカ大統領選挙が控えていることなどもあり、投稿監視に関しては引き続き議論が続くことが予測される。
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