「業界を変える」食品会社を立ち上げたミシェル・オバマの思いとは

Mary Altaffer / AP Photo

◆業界全体を変えたいというオバマの思い
 オバマは新たなベンチャーの立ち上げにあたり、ウォール・ストリート・ジャーナルの「フューチャー・オブ・エブリシング・フェスティバル(Future of Everything Festival)」に参加し、その思いを語った。彼女は、2人の娘の子育てに精を尽くしていたが、ある時、医師から彼女たちの食事や飲み物に気をつけないと、将来的に糖尿病などになる恐れがあると警告を受けたという。子育てのさまざまなタスクに忙殺されるなか、食事や飲み物の選択に関しては簡便さが優先されるというのが親としての現実。しかし、市場における選択肢は限られている。りんごやニンジンなどのパッケージでヘルシーに見せかけた商品も含め、必ずしも体に良くない商品が市場にあふれ、健康に配慮した選択肢が限られている。その状況に対してオバマは怒りを覚え、失望したという。

 オバマは2010年、ファーストレディの立場として、子供の肥満防止キャンペーン「レッツ・ムーブ(Let’s Move)」を立ち上げ、ホワイトハウスに菜園を作ったり、給食の内容を改善したり、子供のための健康な食事と運動を促進するさまざまな活動を行ってきた。しかし、ホワイトハウスという強力なプラットフォームを使ってさえも、業界自体を変えることはできなかったと彼女は語る。その思いを受け、今回、自らが共同創業者および戦略パートナーとしてプレジの事業に参画したという。

 プレジのこだわりの一つは、子供が気に入るような美味しいジュースを展開することだ。アメリカでは、子供一人あたり平均年間24キロもの砂糖を消費している。飲み物に添加されている砂糖は、その消費量の半分近くを占める。プレジの商品は砂糖をカットして、人工甘味料を加えるのではなく、甘さ自体を控えめにしている。これには子供の舌を慣れさせるという狙いがあるようだ。だからこそジュース自体の美味しさにはこだわった。

 また、全米の小売にくまなく流通させることもプレジにとっては重要だ。健康な食べ物や飲み物の選択肢は市場には存在するものの、それは一部の特権を持った層だけがアクセスできるという現状に対しても、オバマは課題意識を持つ。プレジは現在、アメリカの大手スーパーチェーンのターゲットやウォルマートなどを通じで販売されている。ターゲットでは一本あたり約180円と手の届きやすい値段でオンライン販売されている。数ヶ月後には、より多くの小売に流通させ、低所得者層を含めたすべての家庭にも届くようにするとオバマは語った。

 イベントでのプレゼンテーションは、食品業界への啓発の場でもあった。プレジは、自らが競合他社にとっての「脅威」となることで、競合に本当に健康で美味しい商品を開発させ、流通させてもらうように働きかける存在だ。プレジの存在意義は、市場シェアの獲得ではなく、市場自体を健康なものへと変革させることだ。

 ミシェル・オバマの思いと彼女のブランド力が、業界を変えることができるか。プレジの今後の商品展開やマーケティング戦略は、引き続き無視できないものとなるだろう。

Text by MAKI NAKATA