「世界一のレストラン」ノーマが閉店後に挑む「ノーマ3.0」とは

Jens Dresling / Polfoto via AP

◆ファイン・ダイニングの未来
 2003年にオープンして以来、ノーマはこれまでもレストランの「閉店」と変革を繰り返してきた。2016年にはコペンハーゲンの1号店を閉店し、2年後、自治区として知られるクリスチャニア地区の外れに、農園つきレストランとして再開した。過去、日本、メキシコ、オーストラリアの各地でポップアップレストランを開催。また、2020年には新型コロナウイルスのパンデミックでレストランの休業を余儀なくされたが、6ヶ月間の期間限定で、ハンバーガー・ショップとワインバーという、ファイン・ダイニングとはまったく異なる業態で、人々を驚かせた。2021年、ノーマはイギリスのメディア会社ウィリアム・リードが運営する「世界のベストレストラン50」で、3度目となるトップの座に選ばれた。

 一方、料理長のレネ・レゼピ(René Redzepi)にとって、ノーマの軌跡は必ずしも薔薇色というわけではなかったようだ。ニューヨーク・タイムズによると、財政的にも精神的にも、現在のファイン・ダイニングのモデルの継続は難しいとレゼピは語っている。レストラン業界のスタッフは、長時間の肉体労働を科される。ノーマでは毎年、何十名もの無給インターンを採用し、そのなかから2〜30名を社員に登用してきた。一流シェフを目指す人々にとって、ノーマでのインターン経験はプライスレスな経歴だと言える一方、包丁すら使わない単純作業の労働力として使われていたという側面もあるようだ。2021年10月、ノーマはインターンに給与を支払うと発表。少なくとも5万ドルの追加経費が毎月発生することになった。厨房においてシェフが若手スタッフに罵声を浴びせるような状況は、よくあるシーンとしてメディアを通じて一般にも知られているが、ノーマもこうした毒性のある職場環境と無縁ではなかったようだ。レゼピ自身もスタッフに対するいじめがあったことを認めている。

 ノーマの変革は、ファイン・ダイニング業界全体の構造的な課題を示している。ノーマ3.0において、食のクリエイティビティ、スタッフの幸せ、そして事業のサステナビリティを実現できるか。レゼピとノーマを今後も世界の業界関係者が注視し続けることは間違いなさそうだ。

Text by MAKI NAKATA