セラノス創業者の有罪判決は女性だから? 巻き起こるシリコンバレーの性差別議論

サンノゼの連邦裁判所に到着したエリザベス・ホームズ(10月17日)|Jeff Chiu / AP Photo

◆シリコンバレーのジェンダーバイアス
 ホームズの栄光と転落、そしてメディアや世論の反応については、彼女が女性であることにまつわる議論が浮上しているが、そこにはさまざまなニュアンスが含まれる。

 たとえばレディットの元CEOで、より公平でインクルーシブなテック界の実現を目指す非営利団体のCEOも務める投資家のエレン・パオ(Ellen Pao)は、ニューヨークタイムズのオピニオン記事で、シリコンバレー界におけるセクシズムやジェンダーバイアスの問題を指摘。パオは、ホームズはセラノスの経営者として自らの行為に責任を持つべきだとした上で、多くの男性の経営者が責任を回避しているという点は、セクシズムである可能性があると論じる。

 彼女は、罪には問われていないものの、セクハラ問題などでその座から退いた、ウィーワークの創業者であるアダム・ニューマン(Adam Neumann)や、ウーバー創業者であるトラビス・カラニック(Travis Kalanick)などを例に挙げる。彼らはシリコンバレー的な疑わしく、非倫理的で、危険なやり方で100億ドル以上の資金を調達したとパオは指摘。ウィーワークやウーバーからは去ったものの、別のスタートアップの経営者としてテック界に健在する。

 ほかにも、電子タバコのジュール(Juul)を立ち上げたが、危険なマーケティングが問題になって同社を去ったケビン・バーンズ(Kevin Burns)は、ジュールを去って1年足らずで別の会社に雇われ4億ドル近くを調達した。これらの男性経営者に対する処遇と、ホームズに対する処遇の差はセクシズムであるというのがパオの主張だ。そこには急成長でユニコーン企業を目指すシリコンバレー的なスタートアップ・エコシステムの負の側面が見え隠れする。

 多くの資金調達に成功している女性のシリコンバレー経営者の数が限られているからこそ、女性の経営者に対してはダブルスタンダードが存在する一方で、多くの女性たちはホームズに対する有罪判決を歓迎している。彼女たちは、ホームズがスティーブ・ジョブズを想起させる黒のタートルネックを着て、声を低くして、シリコンバレーの男性経営者のように振る舞ってきたのに対し、裁判が始まると一転してフェミニンな装いで、ステレオタイプ的な女性らしさや弱さを裁判の「カード」として使っていた点を指摘する。

 ホームズはセラノスの元COOバルワニと交際していたが、性的暴行を受けていたという。その点に関する事実関係は明確にされてはいないが、ホームズが「男性に操られていた若い女性」として責任を回避しようとしていたことに、女性たちは懸念を示していたようだ。だからこそ、彼女たちは今回の判決を歓迎している。

 資金調達や顧客獲得といったホームズが成し遂げたこと、そして詐欺の罪を犯したこと自体は、彼女が女性であることと直接関係しない。しかし、その行動や見た目は、「女性」というジェンダーの視点を通じて見られている。さらに、シリコンバレーにおける女性の存在が稀であるからこそ、良くも悪くもホームズは「ロールモデル」であり、ほかの女性の経営者やテック界のリーダーたちに及ぶ影響は少なくない。

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Text by MAKI NAKATA