セラノス創業者の有罪判決は女性だから? 巻き起こるシリコンバレーの性差別議論

サンノゼの連邦裁判所に到着したエリザベス・ホームズ(10月17日)|Jeff Chiu / AP Photo

 米国の血液検査ベンチャー、セラノス(Theranos)の創業者であるエリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)が、投資家に対する詐欺の容疑で、禁錮11年3月の実刑判決を受けた。シリコンバレーの若き女性最高経営責任者(CEO)として注目を集めたホームズの転落と有罪判決。彼女の犯した罪は許されるものではないが、白人男性であれば違った扱いになっていたのではないかというジェンダーバイアスの議論も浮上している。

◆エリザベス・ホームズの栄光と転落
 2003年、当時19歳の大学生だったホームズは、スタンフォード大学を中退し、血液検査のスタートアップ、セラノスを創業した。ホームズは自身が針恐怖症であり、従来の注射器を使った腕に針を打つ方法ではなく、指から採取した数滴の血液だけで血液検査ができる「エジソン」という機械を使った方法を開発したと謳っていた。同社はメディア界の富豪ルパート・マードックや、オラクルの共同創業者ラリー・エリソン、ベンチャー・キャピタルから合計7億ドルを調達。セラノスには90億ドルという企業価値がつき、同社の株式の50%を保有していたホームズは、45億ドルの資産価値があると評価された。

 フォーブスは、当時30歳であった彼女のことを、自らの力でのしあがった世界で最も若い女性のビリオネアだと称した。しかし、2015年ごろからセラノスの技術に対する疑問や批判の声が相次ぐようになり、連邦政府の捜査が始まった。同誌は2016年6月、彼女の資産価値はゼロであると推定した(フォーブス)。

 セラノスの状況に関する最も重要な報道の一つが、2015年10月に公開されたジョン・キャリールーによるウォール・ストリート・ジャーナルの『いま熱いスタートアップのセラノス、血液検査の技術に関して苦戦』と題された記事だ。元従業員などへの取材をもとに書かれた記事によると、2014年時点でエジソンを使った血液検査はわずか15件。あとの190件はすでに市販されている従来の機械を使ったものだったという。また、従来の機械で血液検査をするために、採取した血液サンプルを薄めて使ったり、従来の注射器を使って患者の腕から血液を採血したりする方法も行っていた。

 ウォール・ストリート・ジャーナルの記事を機に、セラノスは転落の道を辿っていった。2016年1月には連邦政府の基準に反しているとの指摘が入り、同年10月には投資家がセラノスを告訴。翌月には最大の小売薬局パートナーであったウォルグリーンも告訴。2018年3月には、米国の証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)が、ホームズと元最高執行責任者(COO)のラメシュ・バルワニによる大規模詐欺の疑いをかけ、同年6月には2人は詐欺罪で告発された。

 その後、裁判が新型コロナウイルスのパンデミックやホームズの妊娠などで何度か延期になっていたが、最終的に今年の11月18日、ホームズに対して11年3月の禁固刑という判決が下された。セラノスが標榜していた「数滴の血液で検査ができる」という技術は不完全で、事実上存在していないものだった。

Text by MAKI NAKATA