リモート時代の「出張」、オフサイトに集まって同僚と楽しむものに

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 出張はかつて、クライアントや別のオフィスに勤務する仕事仲間に会うため、社員を勤務先のオフィスとは異なる場所へ派遣することを意味していた。しかし、リモートワークが主流を占める多くの企業にとっては逆の意味を持つ。遠く離れた場所で勤務する社員が一堂に会し、仕事をしたり直接会ったりすることを示すようになった。

 このような場所は、企業が実際のオフィスを所有していたころの名残から「オフサイト(離れた場所)」と表現され、出張の様相を変えていく可能性を秘めている。

 レジャー旅行は2022年に活気を取り戻してきたものの、ビジネス旅行の回復は遅れている。一方で企業がオフサイトにかける予算は、ここ数年よりもさらに拡大する可能性がある。

 社員が世界中に散らばっているソフトウェア企業のドイスト(Doist)は、7月に全社をあげて開催するリトリートでいつもとは違うことを企画したいと考えた。

 リモートチームのマネージャーを務めるチェイス・ウォリントン氏は「オーストリアのアルプスにあるリゾートヴィラを借りて滞在しました。この地方の民族衣装であるレーダーホーゼンを着てパーティを開催したり、伝統的な山小屋でのディナーを楽しんだりしました」と話す。

 同氏によると、このようなオフサイトでの集いには、これまでの出張にはない目的があるという。仕事をこなすためのミーティングに明け暮れることよりも、リトリートでは参加者同士のつながりや楽しむことが目的となる。つまり、従来の出張を想定したマニュアルは通用しない。

◆ビジネスか娯楽か、もしくは何かほかのものか
 オフサイトでのリトリートは、従来のビジネス旅行の代わりというよりも、新たなトレンドとして独自に注目を集めている。

 企業向けにリトリートを手配するサーフオフィス(Surf Office)で、プロパティーパートナーの開拓責任者を務めるブルーノ・ムチャーダ氏は「これからも出張は続くと思いますが、表向きには違って見えるでしょう。クライアントを訪問するのと同じように、自分の会社へと足を運ぶのです」と話す。

 さらに、オフサイトの主催者によると、ビジネスとレジャーを組み合わせた「ブレジャー」とよばれる旅行スタイルでは、従来のような会議やスケジュール管理はあまり意味をなさない。これまでとは180度異なる状況下では、社員は自宅で仕事をし、仕事仲間と「オフィス」で楽しむ。その逆はないのだ。

 ドイストでオフサイトイベントを企画運営するウォリントン氏は「1日ごとのスケジュール配分にもこの原則が当てはまります。仕事に20%、アクティビティに30%、そして自由時間に50%という配分が理想です」と話す。

 この自由時間のなかで、オフィス勤務に戻ることを推進する人々が評価している社員同士のつながりや対話のようなものが芽生える。そして、オフサイトでの企画内容や開催場所は、それ次第でまったく異なるものになる。

 ウォリントン氏は「都市の中心部にあるような大きなホテルで、おおげさな計画を立てることはやめてほしい」と社員の気持ちを代弁する。

 出張からの継続的な需要に依存していた従来のカンファレンスセンターやホテルは、問題を抱えることになるかもしれない。その一方で、リモート勤務体制をとる企業がリトリートを通して社員の士気を維持できるよう、スモールビジネスによる新たなエコシステムが構築されている。

◆スタートアップ企業によるオフサイト市場参入
 期待の高まるオフサイト市場へ投資が集まっている。ソフトウェア企業のセールスフォース(Salesforce)は、チームビルディングのためのイベントを開催するため、カリフォルニア州レッドウッズに自社専用のウェルネス・リトリート施設を設立した。さらに、2021年に開業したワーケーション・ビレッジは、企業に合ったリトリートをカスタムメイドして提案する。

 リモートワークを主流とする企業は、数百人もの社員が集まる全社的なイベントに士気を上げる効果はあるものの、その企画運営には苦労が絶えないことを実感している。

 ムチャーダ氏は「トラベルマネージャーの役職を置く企業も多いですが、すべてを企画することは大変だとわかり、当社に連絡をしてくる企業も多いです」と話す。

 カリフォルニア州サンタクルーズからイタリアのトスカーナ地方にいたる世界中を拠点にリトリート施設を運営するサーフオフィスは、企業のトラベルマネージャーや人事チームが担う情報収集業務や書類仕事を軽減させることを目指す。需要が急増しているいま、同様の事業が相次いで立ち上がっている。

 リトリート施設をエアビーアンドビーに類似するマーケットプレイスで提供するオフサイター(Offsiter)の創設者、ハンター・ブロック氏は「ワクチン接種が普及し始め、世界は変化に向かっていると認識しました。オフィスに人が戻ることはないでしょう」と述べる。

 企業は場所を提供されるのみでなくイベントの企画を提案されることも望んでいる、とブロック氏はすぐに感じ取った。オフサイターは現在、ケータリング手配や企業の記念Tシャツのサイズをとりまとめるなど、あらゆるサービスを一貫して請け負っている。

 同氏は「クリップボードを掲げて道順を伝える役割にいたるまで、ある限りの業務を請け負います。そうすれば、肝心なことに気をとられることなく、チーム全体が参加するようになるのです。私たちはウェディングプランナーに似ているかもしれません」と話す。

 急な追い風に後押しされているオフサイト業界ではあるが、市場はまだ成熟しておらず、成功までには多くの紆余曲折があるだろう。

 ウォリントン氏は「この市場で活用できるようなツールをいくつか試してきましたが、どれも完成にはほど遠いものです。飛行機を飛ばしながら作っているようなものです」と話す。

By SAM KEMMIS of NerdWallet
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP