わずかなストリーミング収入、苦しいアーティスト……英で問題になる配信サービスのあり方

ナディーン・シャー|CJS Media / Shutterstock.com

◆もはやぼったくり 英議会も調査へ
 ストリーミングサービスのプラットフォームは、レコード・レーベルと契約を結び楽曲の提供を受けている。収入は、サブスク(定額制)の料金と広告がメインだ。収益のうち、プラットフォームの取り分は約30%、15%はソングライターの代理人である音楽出版社に支払われ、残りの55%がレコード・レーベルに入る。レーベルはそのうちの何割かを、先に投資として前払いした分を差し引いてアーティストに支払う。(カンバセーション)

 3大レーベルは、ほとんどのアーティストはストリーミングのロイヤリティの20~25%を受け取っていると説明する。しかし仮にアーティストが10万ポンド(約1550万円)の前払いを受けているとすれば、50万ポンド(約7750万円)の売り上げが出るまでは、収入はまったく入ってこないことになる。ヒットが約束される有名アーティスト以外には非常に厳しいシステムだ。(フィナンシャル・タイムズ紙

 レーベルを潤し、アーティストから搾取する構造になっている現在の音楽ストリーミングは以前から問題視されてきた。イギリス政府は、より公平なシステムにするため、またクリエーターがより多くの利益を得る方法を検討するため、音楽ストリーミングに関する調査を実施してきた。

 デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)の委員会では、アーティストからの赤裸々な証言があった。ナンバーワン・アルバムに楽曲を書いても印税がわずか100ポンド(約1万5500円)だったという作曲家の話や、家賃を払うのにも困っているという人気歌手の訴えがメディアに大きく報じられている。(ガーディアン紙、カンバセーション)

◆希望は法改正? 大物アーティストも公正を訴える
 DCMSの委員会では、経済的には安泰であろう有名アーティストからの証言もあった。レディオヘッドのエド・オブライエンは、ストリーミングそのものは効率的なシステムだと評価しつつも、透明性の欠けた著作権という古いシステムの上に固定されていると指摘。メジャー・レーベルが収益を最大化しようとするのは理解できるが持続可能ではないとし、誰かがシステムを変えなければ問題は解決しないと述べている。(ガーディアン紙)

 ブルネル大学(ロンドン)のヘイリー・ボッシャー氏は、著作権法はクリエーターが自身の作品の対価を得ることで創作活動を続け、作品を広めることで社会全体に利益をもたらすことを目的としたものだと述べる。しかしそれがアーティストやソングライターの期待を裏切っている以上、法律を変えることが必要だとしている。(カンバセーション)

 wタイムズ紙によれば、スポティファイはイギリスでのサブスク料金の値上げを発表しており、この背景にアーティストが受け取っている金額が厳しく調査されたことがあるとしている。スポティファイからレーベルに渡る金額は増えることになるが、最終的にアーティストに支払われる額の増加はわずかにとどまるのではないかという見方もあり、抜本的な解決の道は遠そうだ。

【関連記事】
アフリカで中国の音楽配信「ブームプレイ」躍進 大手も狙う市場の現在地
スポティファイ、ポッドキャスト2社買収 ネットフリックス式を模倣
日本のアニメーターの低賃金に海外衝撃 「夢の職業」の実態を米紙が特集

Text by 山川 真智子