アマゾン、遠隔医療サービス「アマゾンケア」を一般企業に提供へ

NBBJ / Amazon via AP

 医療サービスの提供に向けて、アマゾンが第一歩を踏み出した。遠隔診療プログラム「アマゾンケア(Amazon Care)」を全米の一般企業に向けて展開すると、3月17日に発表した。

 アマゾンケアは、24時間対応が可能な医師やナース・プラクティショナー(高度実践看護師)、看護師とオンラインでつながり、電話による診察や治療を受けることができるアプリである。現時点では、ワシントン州内で働くアマゾンの従業員のみが利用できる。そのなかの都市シアトルでは、処方薬の配送サービスや、血液検査などの医療処置が可能な看護師による往診など、対面型の医療サービスも提供されている。

 巨大テクノロジー企業のアマゾンが3月17日に発表した方針により、従業員への福利厚生として導入を検討するワシントン州内の企業に向けて、サービスの拡大が早急に進められる予定であることが示された。今夏までにはアマゾンケアのサービスを全国に展開し、全米のアマゾンで働く従業員や一般企業に向けて提供を開始する見込みだ。

 2万5000人以上の従業員が働くアマゾン第2本社ビルが建設されているバージニア州北部周辺や、ワシントンDC、 メリーランド州ボルチモアにおいても、シアトルと同様に対面型サービスがアマゾンケアで利用可能になる予定である。

 アマゾンケアのクリステン・ヘルトン取締役は、「ほかの企業に対してサービスの提供を始めることは、大きな前進です。レベルの高い医療処置を受けられ、利便性がよく、安心感を得られるこのサービスを導入することは、先見の明のある企業にとってはよい機会です」と話している。

 ヘルトン氏によると、1年半前にアマゾンはワシントン州内で働く自社従業員を対象にこのサービスを開始した。利用者からは高評価を得ており、法人顧客である企業からは社内の福利厚生のために同サービスを導入したいと問い合わせを受けていたという。このサービスは企業がすでに従業員に提供している給付内容に付加、または補填するものである。

 新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、遠隔診療やオンラインでの医療サービスに対する消費者からの需要は急速に高まってきた。バージニア工科大学医学部教授であり、同州南西部を拠点とする非営利医療組織「カリリオン・クリニック」で医療情報主任を務めるスティーブン・モーガン氏によると、以前は1ヶ月で100件程度であった同クリニックでのオンライン診察が、新型ウイルス感染症の流行が始まって以降2週間以内で、1日約800件へと増加したという。

 遠隔型であれば、医療機関の受診が難しい人、または受診するために遠方から足を運ばなければならない人に対して医療サービスの提供が可能になるだけでなく、従来の対面型での診察と同等レベルの医療サービスが、遠隔診療においても提供できるとモーガン氏は調査による結果を示した。

 ただし、医療サービスの質を低下させないためには、サービス提供者がチェック&バランスを機能させることが重要であるとモーガン氏は述べる。

 へルトン氏によると、利用者がアマゾンケアにログインすると、ニーズを把握するための質問がいくつか用意されている。そして状況に応じて、看護師、ナース・プラクティショナー、または医師のいずれかに案内される。通常、ログイン後60秒以内で医療専門家との通話が開始される。

 医療サービスは、アマゾンと専属契約を結ぶ「ケア・メディカル」によって提供されている。

「アマゾン薬局」や、健康指標を測るリストバンド「アマゾン・ヘイロー(Amazon Halo)」など、アマゾンはこれまでにも医療分野において新しい取り組みを打ち出してきた。へルトン氏は、「アマゾンケアは、巨大テクノロジー企業である自社従業員にとどまらず、医療サービスをさらに拡大していくための最初の一歩になる」と述べている。

 企業や保険会社の多くは、従業員や契約者から申請される保険金の支払いを行うのみでなく、医療サービスの提供により深く関わる事業の拡大を強化してきた。このような企業による遠隔診療サービスへの取り組みは、新型コロナウイルス感染症の流行が始まる前から進められており、大企業もまた、職場やその近隣に診療所を新たに開設してきた。

 迅速で確実に医療サービスを利用できることで、患者は健康を維持し、仕事を継続することができる。また、病気が悪化することを防ぎ、治療費が高額になることを抑えることにもつながる。賃金や物価よりも急速に増え続ける医療費にブレーキをかけようと、企業は何年ものあいだ試行錯誤を重ねてきたのだ。

By MATTHEW BARAKAT Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP