日本に老舗多いのは「婿養子システム」に秘密? 海外も注目の独特の習慣
♦︎優秀な才能を取り込む
婿養子を通じて後継者を選ぶという習慣は日本の慣わしだが、海外でも参考にすべきとの意見がある。フィリピンのインクワイアラー紙は、同国の企業も日本の養子縁組の制度に学ぶところがあると述べている。個人投資家のアンドリュー・ゴティアヌン氏が設立した持株会社の跡取りに、ハーバード大で学んだジョセフ・ヤプ氏が採用されるなど、婿養子の形で跡取りが決定する例は少数ながらフィリピンでも出てきているようだ。
そのメリットは、研究によっても明らかになってきている。経済政策を専門とするフィリピンのユパナ・ウィワッタナカンタン氏は、インクワイアラー紙への寄稿記事で自身の研究の成果を紹介している。研究では、経営者を婿養子によって受け入れた複数の企業について、総資産利益率、売上成長、従業員数の伸びなどの指標を用いて分析を行った。結果、婿養子を受け入れていないほかの家族経営企業や非家族経営の企業と比較して、より優れた業績を発揮していることが判明している。家庭内から選ばれる跡取りよりも学歴が高くなる傾向にあることや、世の中の多くの才能人から後継者を選択できることなどが事業へのプラス要因となるようだ。例外として、まだ創業者自身が率いている企業には劣る結果となった。しかし、創業者には特異のカリスマ性があることを加味すれば、養子縁組でトップに就いた経営者も十分に健闘しているとみなすことができるだろう。
♦︎苦悩を乗り越えて
この婿養子の制度だが、養子縁組される側には苦悩の種となることもある。冒頭に挙げた群馬の豆腐店のケースでは、長年勤めている従業員の反感を買うことのないよう、夫は下っ端の見習いとして業務を開始した。豆腐は日持ちせず当日中に売り切る必要があるため、深夜1時に起床して商品づくりに精を出す日々が続いたという。経営を指揮するようになってからも、突如飛び込んだ斜陽産業の先行きに不安を抱えることも多かった。安定を求める一族に反して新たな道を模索し、衝突することもあったという。しかし、このような衝突は婿養子のメリットだと指摘する意見もある。伝統的な考えに固執しがちな家族企業に新風を吹き入れる効果があるためだ。
英BBCのワークライフ・セクションに寄稿するブライアン・ラフキン氏は、日本には100年以上も続く企業が3万3000以上も存在すると紹介している。さらに韓国銀行が2008年に行った調査によると、世界に存在する200年以上の企業は5586社あり、その半数以上が日本に集中していることが判明している。企業の核となる強みを受け継ぎながら時代の荒波を乗り越えるうえで、婿養子を家系に取り入れることで安定した事業の継続を図る試みが効果を発揮しているのではないかと同記事は指摘している。
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