ローテク日本の在宅勤務 新型コロナ流行で試練
4月上旬、日本政府はコロナウイルスの蔓延抑制のための緊急事態宣言を発令し、国民に在宅勤務を要請した。ところがそのことによって、多くの人々が家電販売店に殺到する結果となった。
ワーカーたちの「社会的距離」を確保するためには、さまざまな準備が必要だ。
日本人の多くは、在宅勤務に必要な基本ツールを持っていない。ロボット技術、洗練されたデザイン、豊富なガジェットを取りそろえた「株式会社日本」の近未来的イメージに反して、実際の日本は、現在、多くの技術的な課題を抱えている。
しかし専門家に言わせると、より大きな障害となっているのは日本の企業文化だ。いまだに電子メールではなくファックスに依存しているオフィスも少なくない。多くの家庭には高速インターネット接続環境がなく、また、各種の書類には署名の代わりに印鑑での押印が求められることも多い。そのため日本人の多くは、短期間ならともかくとして、恒常的にリモートで在宅勤務を行うことが現実的に不可能だ。
イギリスの市場調査会社「ユーガブ」が行った最近の調査によると、日本国内でウイルス感染を危惧する人は80%。そのような高率にもかかわらず、実際に通勤・通学しないで自宅待機できた人は、調査対象の18%に過ぎなかった。
インドでは、調査対象の70%近くが自宅待機を行っていた。ユーガブの調査によると、アメリカではこの率は約30%だった。
日本において「テレワーク」ないしは在宅勤務の導入に早い時点から取り組んできたテレワークマネジメント社の社長、田澤由利氏によると、日本人ワーカーはアメリカ人ワーカーに比べて職務内容の定義が明確でない場合が多く、そのため企業は、社内のスタッフ間で常にコミュニケーションを取りながらチームとして働くことを期待しているという。
「しかしこれは、働く人とその家族にとっては死活問題です。いまできることを、いますぐ実行する必要があります」と田澤氏は語る。
同氏はパソコン利用が無理な場合に、携帯電話のみを使用して即座に在宅勤務をスタートする方法に関する短期集中コースを、オンライン上で提供している。田澤氏はこのアプローチを「仮想クラウドオフィス」と呼ぶ。
各ワーカーがディスカッションのためにログイン・ログアウトを行うスタイルの、よくあるZoom(ズーム)会議とは異なり、田澤氏が提案するのは、音声接続の目的に限ってズームを使用するスタイルだ。その接続を終日維持することにより、ワーカーたちは、いつものオフィス内で一緒に仕事をするのと同じ感覚で働くことができる。
「コロナウイルスと闘う上で、テレワークはきわめて重要です」と同氏は述べる。
トヨタ自動車やソニーなど、日本の大手企業の一部はすでに在宅勤務の方針を打ち出している。最も大きな課題を抱えているのは、日本経済の約7割を占める中小企業だ。
コーポレートガバナンスが専門のニコラス・ベネシュ氏は、在宅勤務に関する無料のウェブセミナーを日本人向けに提供している。そのベネシュ氏によると、人々の関心は意外なほど低いという。
最先端ITシステムの整備が遅れている日本においては、柔軟性ある業務慣行の醸成、職場内のルール作りと管理の手法、そしてそれ以前に、リモートワークに対する理解も含めて、あらゆるものが世界のトレンドから遅れている。そしてこれは、他国に比べて日本の労働生産性が比較的低いことの一因にもなっている。
「上司に確認を取るためにいちいちメールやスカイプで連絡していると、膨大な時間がかかります。そのためテレワークにおいては、従業員を信頼し、それまでよりもはるかに大きな意思決定の権限を与えることが管理側に求められます」とベネシュ氏は語る。同氏が代表理事を務める非営利法人「会社役員育成機構」は、コーポレートマネジメントおよびコーポレートガバナンスに関するトレーニングを提供している。
ベネシュ氏によると、日本企業では依然として、人と人とが直接対面するシーンでの微妙なニュアンスを読み取る能力が重視されており、それは俗に「その場の空気を感じ取れる」とか、「空気が読める」などと表現される。
さらにはファックスの問題がある。
政府の調査によると、日本では全世帯の3分の1がファックスを使用している。
ソフトバンク社などの旧来型のビジネス慣習に懐疑的な一部の革新的企業を除いて、ファックスを使用しない企業はほぼ見当たらない。社会的に名の知れた団体や組織においても、文書やその他の情報を電子メールではなくファックスのみで受け取ることを求められるケースが多い。
そのため、コロナウイルスの感染者数が増加を続けるなかでも、日本の都市部を走る通勤電車はいまだに混雑しており、それ以前の超満員状態がわずかに緩和されたに過ぎない。
いわゆる日本のサラリーマンとして働くタカミ氏は、最終的に職場から在宅勤務を言い渡された4月中旬までは、普通にオフィスに通って働かなければならなかったと話す。しかしタカミ氏はいまのところ、自分が在宅で何をすべきかについては、ほとんど指示を受けていない。近いうちに何らかのオンライン講座を受講するよう指示がくるかもしれない、とタカミ氏は語る。
職場の名前を明かさないことを前提にインタビューに応じた同氏は、社員の命よりも企業の論理を優先しているとも思える現在の職場に対して疑念を持っている。「今後は、自分の人生で本当にやりたいことは何かを考えるために多くの時間を使うつもりです」と話している。
By YURI KAGEYAMA AP Business Writer
Translated by Conyac