リモートワーカーをどのように管理? 最新ツールだけでは足りないその難しさ

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 ニコラス・バンデンバーグ氏は、15ヶ国36都市に42人のスタッフを抱えている。テクノロジーが発展したおかげで、リモートワークという雇用形態でも常に連絡を取り合うことが可能となったいま、チリ・パイパー社のような会社も一般的になりつつある。

 企業向け会議管理ソフトウェアを開発する会社の経営者であるバンデンバーグ氏は、「当社ではズーム、スラックなど、数々の連絡ツールを駆使しています。たとえば冷水器について話し合うためだけに、わざわざ集まる必要があるのでしょうか?」と問いかける。バンデンバーグ氏自身もまた、ブルックリン、ニューヨーク、ロサンゼルス、フランスで暮らしながら、常にリモートで働いている。

 たとえば子持ちのスタッフが、病気の子供の面倒を見ながら在宅で仕事をする。毎日コーヒーショップで仕事用のパソコンにログインしている人もいれば、ある法律会社はすべての事業をオンラインで行っている。形はさまざまだが、小規模な企業ではリモートワークが本格化しつつある。リモートワークの流行を後押しした大きな要因としては、コミュニケーションや会議を円滑にしてくれるテクノロジーの発展が挙げられるが、アメリカでは失業率が1年超にわたり4%を切るなか、労働力の縮小もまた一つの要因となっている。いまでは多くの企業が、手近なところで人員を見つけられるとは思っていない。

 リモートワーカーの人口については、信頼のおける統計結果は少ないが、ギャラップ社が2016年に行った最新の調査によると、アメリカでは会社員の43%が何らかの業務をリモートで行っており、2012年からは4%ポイント増加していることがわかった。

 リモートワーク人口は増加しているが、経営者の側からすると、最新のテクノロジーを整備するだけでは、リモート勤務のスタッフを管理するのは難しい。たとえばテレビ会議を行ったりスラックなどのメッセージングアプリを用意したりするだけでは、十分なコミュニケーションが取れているとはいえない。ジャズミン・バレンシア氏の場合、7人いるスタッフのうち3人が、彼女とともにロサンゼルスのオフィスで働いているが、3人はニューヨークに、1人はシカゴに居住している。同氏の経営するJVエージェンシー社は、音楽業界のマーケティングを行う企業だ。オンサイト勤務のチームが話し合いを進めている間、リモートで働くスタッフは蚊帳の外と感じている恐れもある。

「全員が同じ考えを持てるように、同じことを繰り返し伝えなければなりません。つまり1対1でのやり取りがより重要となるのです。リモートワーカーに対しては電話でのやり取りを増やし、コンスタントにメールや、プライベートなメッセージも送るようにしています。安心感を持ってほしいからです」と、バレンシア氏は語る。

 経営者にとっては、リモートワークではスタッフが勤務時間中に何をしているのか把握しにくいこともあるため、スタッフとの間に信頼関係がないことには上手くいかない。タイラー・フォルテ氏は、スタッフに初めてリモートワークを導入したときのことを振り返り、「監視の目を光らせすぎたかなと思います」と言う。フォルテ氏は自らの経営する不動産会社のスタッフの、ソーシャルメディアでの動向を気にかけていた。

 しかしフォルテ氏は、「時が経つにつれ、従業員との間に信頼関係ができ、全員が同じ目標に向かって働いていると思えるようになりました。私が逐一行動を監視していなくても、会社の目標の達成に向け、従業員が最善を尽くしてくれていると信じています」と言う。同氏がCEOを務めるフェリックス・ホームズ社は、テネシー州のナッシュビルに拠点を置きながら、ロサンゼルスにもスタッフを抱えている。

 フォルテ氏の場合、多くの会社経営者が活用しているプロジェクト管理用のソフトウェアを活用したことで、全員の働きぶりを把握できるようになった。

 しかし、スタッフの怠慢とはまた違った問題もある。

 シアトルにハブを持ち、再利用可能なストローを製造しているファイナル・ストローのCEO、エマ・ローズ・コーエン氏は、「スタッフにリモートワークをさせたら、働かないだろうと思われがちです。しかし実際は反対で、雇った人材が優秀であれば、自発性が備わっていますから、その自発性が働きすぎに繋がる恐れもあります」と言う。

 コーエン氏は15人のスタッフを雇っているが、誰かが長時間働きすぎて、「燃え尽きた」「疲れた」「ストレスが溜まった」と訴えるようになったら、休暇を取らなければならないサインだとして、気を配っている。同氏はさらに、自身が仕事以外の用事にも時間を割いていることをしっかり示すよう心がけている。従業員がリモートワークを選べるのは、上司がフレックスタイム制を導入しているからで、そのおかげで子供の行事に時間を割いたり、ジムに通ったり、犬の散歩に行ったりと、自由に過ごすことができる。これが小さな企業にとっては、スタッフを引き留める魅力の一つとなる。

 しかしリモートワークは孤独な作業となることも多く、相性の悪いスタッフもいる。一人ぼっちだと感じたり、同僚から仲間外れにされたりしていると思い込んでしまうこともある。このような問題は、誰でも自由に会話に参加できるメッセージングツールを活用することで、ある程度は解決できる。コーエン氏はさらに進んで、ペットやポッドキャストなど特定の話題に特化したメッセージチャンネルも用意している。

 アンドリュー・デベル氏は、リモートスタッフを雇う際、拠点である事務所に来てもらい、面接を実施している。カリフォルニア州のベンチュラに拠点を置く教材製作会社、ウォーター・ベア・ラーニング社ではこのような対策を通して、リモートワーカーがほかの社員と上手く働けるよう工夫している。

 リモートワークでは、廊下での立ち話で不意にアイデアが舞い降りたり、会議で画期的な意見が出たりする機会がなく、意外と生産的になり得る休憩室での世間話もないため、社員の創造性が著しく低下してしまう恐れがあると危惧する経営者もいる。

 デベル氏は、「数人と電話で話すより、1人と直接会って情報交換をした方が、上手くアイデアを引き出すことができます」と言う。同氏の会社はデンバーに1人、ベンチュラに2人のスタッフを抱えるが、アメリカ東部にフリーランサーのネットワークを築いてもいる。

 バンデンバーグ氏は、スタッフが孤独に陥ることのないよう、コワーキングスペースの利用を呼びかけている。また、ブレインストーミングが必要なときには、彼のもとにスタッフを呼んで、顔を合わせるようにしている。

 サイリ・ゴスラ氏は、カリフォルニア州、サン・マテオにあるシナジー・ホームケアのフランチャイズ店に、リモートで働く事務スタッフを1人と、オンサイト勤務のスタッフを数人雇っているが、介護士は全員が現場に出て働いている。ゴスラ氏はとにかくたくさん連絡を取り合い、報告を行うことで、スタッフ全員が考えを一つにできるよう努めている。

 高齢者や病人の世話をする介護士は、感情的に不安定な繊細な環境で働いているが、ゴスラ氏にもまた、ある意味介護士と同様のスキルが求められているのだ。

「スタッフと頻繁に連絡を取り、状況を確認しています。やり取りのなかでは、必ず質問をするようにしています」とゴスラ氏は言う。

By DEE-ANN DURBIN AP Business Writer
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP