ソフトバンクにとってのWeWork支援とは?

AP Photo / Eugene Hoshiko

 日本の大手テクノロジー企業ソフトバンクは、大胆不敵な創業者である孫正義氏の信念に基づき、シェアオフィス事業を手掛ける新興企業であり苦境に陥っているウィーワークへの数十億ドルの支援策を発表した。

 ウィーワークの窮状は、巨額のビジョン・ファンドを投入しようとしているソフトバンクの投資意欲を削ぎかねないほどに深刻であると指摘するアナリストもいる。

 しかし、保守的な日本の株式会社でありながらもきわめて革新的な企業であるソフトバンクはリスクをいとわない。通信サービスやエネルギー、人間型ロボットまで、多岐に及ぶ事業を統合するコングロマリット(複合企業)の拡大を手掛けている。

                                                                                                                 

◆資金について
 ソフトバンクは、ウィーワークへの支援策として新たに50億ドルを融資し、また既存株主から30億ドルのウィーワーク株を公開買い付けする予定である。そして、15億ドルを資金提供するという合意済みの計画について、実行の時期を早めている。

 ソフトバンクはウィーワークとの取引に使える資金は十分にあると話す。ウィーワーク株式のおよそ80%を獲得し、投機的事業の手練であるソフトバンクのマルセロ・クラウレ最高執行責任者(COO)をウィーワーク会長に就任させる。

 共同創設者のアダム・ニューマン氏は、「オブザーバー」として取締役会に出席することになり、同氏の保有株式に対する議決権は取締役会に委ねられる。

◆苦境に立つウィーワーク
 ニューヨークを本拠地に2010年に創業したウィーワークは2018年に初めて日本で開業し、ピンタレストやスラックにオフィス空間を提供している。2019年6月時点で、同社は世界29ヶ国111都市に528拠点を有していた。

 2019年10月初め、ウィーワークの内部統制と収益性が疑問視されるなか、新規株式公開(IPO)申請が撤回された。

 ソフトバンクグループの会長兼最高経営責任者である孫氏が支援しているのは、革新的なハイテク系スタートアップ企業でなく、所詮は存続の危うい不動産会社なのだと懸念する批判がアナリストから寄せられているが、同氏はこれを否定してきた。

「世界ではいま、人々の働き方が大きく変わろうとしていると、ソフトバンクは確信しています。ウィーワークはこの大改革の最前線にいるのです」と、孫氏は救済策を発表する声明のなかで述べている。

「新しい企業には困難はつきものであるが、だからといって見通しが誤っているというわけではない」と孫氏は言う。

 ウィーワークは、十分な空間を確保できない日本の都市部からのニーズに応えている。オフィス賃貸料は並外れて高く、企業は体裁を保っていなければならない。在宅勤務は社会に受け入れられ難く、自宅も多くは狭小である。

 日本でもきらびやかな銀座エリアにあるウィーワークのシェアオフィスは、スタイリッシュで現代的な装飾が施され、フロアを埋めるブース席には野心的なスタートアップ企業が気に入りそうなあらゆるテクノロジーが装備されている。若い世代やカジュアルで身なりのよい利用者を中心に、多様でエネルギッシュな人々を魅了する。

 ウィーワーク関係者は、会議や仕事用スペースの使用料で高い賃貸料を補っていると話しているが、ブース席は賃貸に出していない。

◆アナリストの見解
「長年にわたって取引を成功させてきたが、何よりも今回の取引で、孫正義氏の投資家としてのレガシーが形作られるだろう」と、投資顧問会社サンフォード・C・バーンスタインのアナリスト、クリス・レーン氏は言う。

「ウィーワークをめぐるIPOの大失敗が、孫氏率いるビジョン・ファンドにとって挫折であったことは周知されており、同氏を懐疑的に見る人たちにとっては『それ見たことか』と声高に攻撃する材料になった。報道機関による論調も多くは、ソフトバンクは失敗したビジネスにさらにお金をつぎこんでいるというものだ」と、レーン氏は報告書のなかで述べている。

 けれども、レーン氏はソフトバンクを「アウトパフォーム(収益率が上回っている)」と格付けしており、ウィーワークをソフトバンクの子会社でなく系列会社であるとする取引に注目している。同氏は、ソフトバンクは5年以内に360億ドル近い潜在的価値を持つ巨大企業を獲得していると考えている。

「ウィーワークは長期的な成長見通しのある、根本的には魅力的な企業であることを、私たちは今後も信じている」と、レーン氏は話す。

◆ソフトバンクが抱えるほかの懸案事項
 ソフトバンクは投資事業で多くの問題に直面している。

 2013年、ソフトバンクは、アメリカで通信サービス事業を手掛けるスプリント株の過半数を買収した。同社の決算成績は改善されていたものの、長年にわたり経営は弱体化していた。現在、スプリントは移動体通信サービスのT-モバイルとの合併に向けて規制当局からの承認を待っている。

 株価が下落しているウーバーへの投資についても別の問題がある。中国のディディ・チューシン(滴滴出行)や東南アジアのベンチャー企業グラブなど、株式公開には至っていないものの、ソフトバンクからの融資を受けているほかの配車サービス運営企業への投資事業について、疑義の念を抱かざるを得ないと考える投資家もいる。

 しかし、孫氏が何よりも意欲的であった投資事業には、きわめて大きな利益をもたらしたものもある。中国のテクノロジー系コングロマリットであるアリババや、日本を中心に成功を収めてきたヤフーなどである。また、孫氏は初期投資家としてソーラーエネルギー事業に携わっていたが、その取り組みがより一般的に知られるようになったのは2011年に起きた福島原子力発電所での大惨事以降である。

 将来を見定め、ソフトバンクはトヨタ自動車と協業し、モビリティサービスを提供する共同出資会社「モネ・テクノロジーズ」を設立した。オンデマンドでの配車サービスや食事の配送サービス、データ解析、病院送迎サービスを提供する。2019年10月より、サービスの実証実験が東京で開始されている。

 ソフトバンクはほかにも次世代テクノロジーに期待を寄せている。ソーラーパネルを搭載した小型無人航空機を使用して通信サービスを提供するHAPSモバイルがその一例だ。同社のシステムは試験段階であるが、地上の通信施設や電波塔よりも災害に強く、新興国において接続機能を提供するなど、広範な地域でのサービスが可能である。

 さらに、子どものようなロボット「ペッパー」もソフトバンクの事業である。収益の追求よりも、人々の注目を引き寄せるために利用しているのだろう。とはいえ、2,000社を超える企業がショッピングモールなど公共の施設で、案内役や受付係にペッパーを起用している。

◆孫正義氏とは
 孫氏はソフトバンクを支える立役者であり、決定的な影響力を行使する。

 孫氏はカリフォルニア大学バークレー校に進学した。ビル・ゲイツ氏や、ファッション通販サイト運営会社を設立し、ジャン=ミシェル・バスキアによる高価な芸術作品を収集している日本の億万長者、前澤友作氏など、著名人との交友を誇っている。

 サウジアラビア皇太子との関係は、ジャーナリストのジャマル・カショギ氏殺害事件を受けてネガティブな印象をもたらした。第2ビジョン・ファンドには、皇太子からの資金援助は含まれていないとソフトバンクは表明する。

 また、孫氏は将来有望な起業家に対し、「孫正義育英財団」を通じて自己資金を提供している。その異能を示し財団からの支援を受けたなかには、2010年生まれで免疫システムの研究を行っている春山侑輝氏や、ハーバード大学でコンピューター・サイエンスと神経科学を学ぶカヴィヤ・コッパラプー氏がいる。

By YURI KAGEYAMA AP Business Writer
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP