「レジなし」を模索する米小売

AP Photo / Elaine Thompson

 レジで順番を待つ長蛇の列に、別れを告げる用意をしよう。

 アマゾンが初のレジなし店舗を開店した1年後、買い物客がレジで会計を待つことなく食料品を購入できるよう、世界中のスタートアップ企業や小売業者が同様のテクノロジーを競って店舗に導入しつつある。

 この仕組みがうまくいけば、レジなし店舗は時間を節約するだけではなく、お金の節約にも一役買う。経費を削減したい小売業者と、購買パターンを分析される買い物客の両者にとって朗報だ。

                                                                                                                 

 店内に設置されたカメラとセンサーから情報が送られ、店は買い物客がいつ商品を手にしたり陳列棚に戻したりするのかを把握できる。同時に、購入を促すためにお得な割引情報を消費者に送ることができる。店は商品を陳列するためにより広いスペースを生み出すことができ、陳列棚への商品の補充がいつ必要になるかをより正確に把握でき、長い待ち行列を心底嫌う大勢の顧客からさらに大きな商機を引き出すことができるようになる。

 しかし、レジなし店舗の基盤となるモニタリングシステムは、特にストアが買い物客に向けて店内の全方位に設置した多数のカメラに顔認識ソフトウエアを導入する場合、新しいプライバシー問題を引き起こしたり、悪意を持つ者の手に顧客データが渡ったりしてしまう懸念が生じることにもなる。

 ロサンゼルスに拠点を置くフェイスファーストの最高経営責任者であるピーター・トレップ氏は、「実に恐ろしく、不気味な状況になりかねない」と語る。同社はこれまで万引き犯や他の犯罪者を特定しようとする小売店に限って顔認識ツールを販売してきた。トレップ氏は、「しかし、人々が購入したいと思っている商品に対して30%のクーポンを配布するために使われるのであれば、この仕組みは素晴らしいメリットとなるだろう。人々はそういった経験を通じて、テクノロジーを受け入れ、活用するようになる」と述べている。

 アマゾンは先陣を切ってアメリカ国内のシカゴ、サンフランシスコ、および、シアトルの3都市で10件のコンビニエンスストアをオープンしている。ストアでは、昼食用のサラダやサンドイッチ、トイレットペーパーや鎮痛解熱剤のアドビルなどの日用品、そして、チェリオス(シリアル)や生の牛挽肉などの食料品を販売する。

 買い物客はアプリをスキャンしてアマゾンゴーの店内に入り、必要なものを手にしてそのまま店の外に出る。天井に設置されたカメラとセンサーが、顧客が手にした商品を追跡し、店を後にする時に代金が自動的にクレジットカードやデビットカードに請求される。買い物客は、アマゾンが送付する買物時間についてのアラートによって、どのくらいの時間を買い物に費やしたのかを知ることができる。

 最近サンフランシスコを訪れた際、アマゾンゴーの一つに立ち寄り、1分5秒でコカ・コーラゼロを購入したトム・ハドフィールド氏は、「実に驚異的な経験だった」と言う。

 テキサス州オースチンで技術系スタートアップ企業を経営している同氏は、このときの経験によって初めてウーバーを利用したときのことを思い出し、「未来の扉がこうして開かれていくのだと誰もが悟る」と述べている。

 アマゾンは、レジなし店舗の売上高を明らかにしていない。しかし最近、RBCキャピタルマーケッツのアナリストたちは、サンフランシスコにあるアマゾンゴーの2店舗を訪れ、指標となる数字を算出した。アナリストたちは、顧客の購買行動パターン観測に基づいて、1日におよそ400人から700人の顧客がそれぞれ店舗面積およそ55坪のアマゾンゴーストアを訪れ、平均して10ドルの買い物をすると仮定し、年間で110万ドルから200万ドルの売上を生み出していると見積もった。RBCは、この200万ドル(約2億2,208万円)という数字は、アメリカ国内にある一般的なコンビニエンスストアの年間売上高の2倍に相当すると算出した。

 数社のスタートアップ企業は、アマゾンゴーのような店を自らの手で作りたいと考える小売業者に対し、テクノロジーを売り込もうとしている。そんなスタートアップ企業の一つ、アイファイという会社は、フランスのチェーン店であるカルフールやポーランドのコンビニエンスストアであるザブカと契約を結んだという。ジッピン、グラブアンゴー、トリゴビジョンやイノーキョーら他のスタートアップ企業は、アメリカを含め、世界中の小売業者と契約をまとめつつあるとしているが、正式に契約締結まで進んだ相手を公表した企業はまだない。

 レジなし店舗技術に取り組むスタートアップ企業の一つ、スタンダードコグニションの共同設立者であるマイケル・サスワル氏は、「いくつかの大手小売チェーンがこのテクノロジーを導入し始めれば、雪だるま式に導入事例は増え、ますます多くのレジなし店舗が誕生するだろう」と語る。

 現在のところ、このテクノロジーに取り組む企業は、顔認識を用いない方法を見いだしている。彼らのシステムは、人の顔の認識よりもむしろ物体の認識を行うカメラを頼りにしている。そして、アマゾンと同様、誰が来店したのかを特定し、どの商品を持ち出したのかを追跡して販売を処理するよう作られたスマートフォンのアプリが欠かせない。

 昨年、スタンダードコグニションとジッピンは、サンフランシスコに小さなストアを開設した。これらのストアでは、完全招待制のデモンストレーションを実施したり、時間を限定した上でごく一部の指定商品を販売したりしている。

 米国富士通研究所の30歳の研究者、ニシムラ・トモノリ氏は、最近、サンフランシスコにあるスタンダードコグニションの小さなストアでファニオン(スナック菓子)を1袋買った後、「ふらりと店に寄って、欲しいものを手にし、また店を出るだけでよいというこのアイデアを私は気に入った」と述べている。

 アマゾンがおよそ8,000億ドル(約88兆8,320億円)という世界で最も高い資産価値を誇るランキング1位の企業であること、また、すでに実運用に至った自社の技術を有することも考慮すると、アマゾンには、レジなし店舗を誰にとってもなじみのある風景にできる可能性が大いにありそうだ。

 しかし、アメリカ国内最大の小売業者もまた、ショッピングのプロセスを迅速化しようと試みている。ウォールマート傘下の倉庫型の会員制スーパーマーケットであるサムズ・クラブは、テキサス州ダラスにレジのない店舗を試験的にオープンした。買い物客は、レジで代金を払う代わりに、スマートフォンを使って商品をスキャンし、代金を支払う。セブンイレブンもまた、ダラスにある14の店舗で試験的に似たような販売を実施している。

 セブンイレブンの最高デジタル責任者兼最高情報責任者、ガーミート・シン氏は、「会計を待ってレジに並ぶことは拷問だ」と語る。だが、レジを撤廃する予定はないとシン氏は付け加えた。シン氏は、支払い方法の選択肢があることは望ましいと考えている。

 レジなし店舗がさらに一般的になるにつれて、銀行口座やクレジットカードを持たない低所得者層の消費者たちに対する差別を避けるため、現金で支払う選択肢を店が依然として提供し続けるよう求める政治的な圧力が高まることだろう。その可能性を予想し、スタンダードコグニションは、試験的にオープンした店舗内に現金でのみ支払いを受け付ける売店を当初から個別に設置している。

 RBCは、アマゾンが最終的には傘下のホールフーズマーケットにもレジなし技術を導入するだろうと考えているが、アマゾンは、そのような計画はないと述べている。今のところ、アマゾンは小規模なストアに目を向けている模様だ。昨年末、同社は、占有面積が約41坪のアマゾンゴーを導入した。これは自動販売機コーナー程度の広さであるため、オフィスビルや病院にも設置が可能だ。

「私は、5年以内に誰もが自動会計システムとはどのようなものかを体験することになると思う。そして、10年以内に普通のレジが非常に珍しい存在になることだろう」とスタンダードコグニションのサスワル氏は語る。

By MICHAEL LIEDTKE and JOSEPH PISANI, AP Business Writers
Translated by ka28310 via Conyac

Text by AP

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