ダイソン、なぜEV生産にシンガポールを選んだのか? 中国に勝る利点とは

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 掃除機やヘアドライヤーで知られるイギリスのダイソンが、電気自動車の生産拠点をシンガポールに置き、2021年の出荷を目指すと10月23日発表した。創業者のジェームズ・ダイソンがイギリスのEU離脱支持を表明しているにもかかわらず、新事業の生産を他国で展開するという決定に驚いた人は多い。その上、既にいくつものプレイヤーが参入し、競争が激化する電気自動車事業にて、あえて平均所得も不動産価格も高くコストのかかるシンガポールを選んだことが関心を呼び、複数のメディアがその理由について推測している。

◆各メディアの分析と解説
 英ガーディアン紙ほか、複数のメディアによると、ダイソンCEOジム・ローウェンは従業員に宛てた文章のなかで、シンガポールを選んだ理由を、シンガポールが急成長中のマーケットに隣接していること、材料部品の供給に至便なこと、そして技術者の専門性が高くコストの高さをカバーできること、としている。

 APは、環境汚染対策、経済近代化のために電気自動車への移行を進める中国との距離の近さを指摘する。

 ロイターの記事は、さらに突っ込んだ分析をし、以下の理由が有利に働いたのではないかと挙げる。

・シンガポールは、会社設立後5年間、優遇税率が適用される(延長可能)、また、企業が生産性を向上させるために費やすコストの30%に補助金が支給されるなど、魅力的なインセンティブを掲げ企業誘致に努めている。

・シンガポールは、電気自動車の需要が見込める中国との間で、各型の自動車及び自動車部品の関税引き下げを含む自由貿易協定(FTA)を結んでいる。

・ダイソンは近年アジア市場で高品質ブランドとしての認知度を上げており、貿易立国のシンガポールからは、中国だけでなく韓国や日本への輸出にも便利な立地である。

・ダイソンはすでにシンガポールと、近隣のマレーシアやフィリピンにも生産拠点があり、部品の供給が容易である。

 また、同記事は、大手自動車メーカーがこぞって電気自動車の生産拠点として資本を投下している中国と比較すると、知的財産保護の観点でシンガポールは強みを発揮するという意見があることも加えている。

Text by Tamami Persson