2000冊をバケツリレー、書店の引っ越しのために市民が温かいボランティア 英国

Hugh Venables

◆市民が続々集結 コミュニティの絆が深まる
 ところが当日は、予想を大幅に上回る人々が書店に集まってきた。社員のジェス・ヘインズさんは、250人まで確認したところで数えるのを止めてしまったとNYTに語っている。ボランティアたちは互いに肩を並べ、旧店舗の在庫部屋から歩道経由で新店舗の店内まで150メートルの列を作り、2000冊以上の本を運びきったという。近所のカフェからはボランティアに紅茶が振舞われ、バス停にいた人や通りすがりの人々も何が起こっているのかを理解すると、率先して列に飛び込んだという(NPR)。

 こうして老若男女を問わず、市民が町の一書店のために力を貸してくれたことに、スタッフはみな言葉を失うほど感動したとヘインズさんは述べた(NYT)。引っ越しを手伝った市民の1人も、コミュニティが一丸となって1つのことをやり遂げたことに、畏敬の念を感じると述べている(ガーディアン紙)。

◆書店減少は止まらず 存続のカギは地域とのつながり
 市民が「オクトーバー・ブックス」を助けたのは、これが初めてではない。実は移転の資金は、すべて市民の協力で得たものだ。同書店は、新店舗として元銀行だったビルを購入する計画を立て、今年の前半に資金集めのキャンペーンを展開していた。市民からの寄付金、クラウドファンディング、期間を定め将来の返済を約束した個人や金融機関からの融資により、8月には48万7,800ポンド(約7,170万円)が集まり、念願のビル購入を果たした(ガーディアン紙)。

 イギリスの書店協会の調べでは、独立系書店の数は11年連続で減少しており、2005年には1,535件だったものが、2017年には867件となっている。協会によれば、賃料高騰、電子書籍やオンライン販売との競争、またネットフリックスやゲームなどの、他のエンターテイメント・プラットフォームの人気が、書店閉店の原因となっている(NYT)。

 そんななか、「オクトーバー・ブックス」は、市民とともに歩むことで生き残りを図っている。資金を提供した金融機関、Cooperative and Community Financeの投資マネージャー、イアン・ロスウェル氏は、「オクトーバー・ブックス」は地元の人々の心のなかで特別な場所を占めていると話し、古い銀行をコミュニティのために使うことで、書店と市民の絆はさらに強まるだろうとしている(ガーディアン紙)。

 新店舗のグランド・オープニングは、11月3日。その40年の歴史に、新しいチャプターが加わることになる。

Text by 山川 真智子