革新的な女性を称えるヴーヴ・クリコ その根底にあるマダム・クリコの存在

Veuve Clicquot

 2018年9月に、シャンパーニュブランドのヴーヴ・クリコにより、革新的精神を持つビジネスウーマンの活動を表彰する「ヴーヴ・クリコ ビジネスウーマン アワード 2018」のアワードセレモニーが開催された。

 メゾン創業200周年の1972年に創設された本アワードは、これまで世界27カ国350名以上の女性の活動を称えており、日本では初めての独自開催だ。

◆革新的な近代の女性実業家
 なぜ、ヴーヴ・クリコがビジネスウーマンを表彰するアワードを開催してきたのか。そこには、文字通りヴーヴ(フランス語で未亡人)の存在がある。1805年、わずか27歳で夫に先立たれ、未亡人となったマダム・クリコは、その若さで夫の経営していたシャンパーニュメゾン・クリコ社のトップに立ち事業を指揮した。1800年代初頭の時代に、女性がビジネスの世界で活躍することが今以上に難しかったことは、想像に難く無いだろう。そんな時代の中で、マダム・クリコは、「初めて」を数多く生み出した女性だ。

 1810年、マダム・クリコはシャンパーニュ地方でヴィンテージシャンパーニュの醸造に成功し、翌年の1811年には大豊作となった。大豊作はシャンパーニュ地方を通過した彗星のおかげと言われており、それを記念したすばらしいヴィンテージ、「彗星ヴィンテージ」が造られたという。

 1816年には、初めて「動瓶(ルミアージュ)」台を発明した。動瓶台とは、ボトルをある角度で傾けることによって、沈殿物を瓶口に集めることができるようにするもので、この手法は現在でも使われている。 ヴーヴ・クリコはその後、急激に発展し、マダム・クリコはシャンパーニュ界の 「偉大なる女性(ラ・ グランダム)」として同業者の間で呼ばれるようになった。

 1818年には、初めてブレンド法によるロゼ・シャンパーニュ造りを成功させた。ニワトコの実をベースに準備したものを追加してロゼシャンパーニュを作るという伝統からの脱却し、マダム・クリコが自ら作ったシャンパーニュにブージー産の赤ワインを少しブレンドすることで、ブレンド法によるロゼ・シャンパーニュ造りに初めて成功した。

 こうした革新的な女性実業家であったマダム・クリコの活動を歴史にもつヴーヴ・クリコだからこそ、革新的なビジネスウーマンを称えるアワードを開催しているということだ。

◆革新的な現代の女性起業家
 近代における女性企業家のパイオニアとして他に類のないアイデンティティと創造力によって メゾン ヴーヴ・クリコ の発展に寄与したマダム・クリコを体現する女性に贈られる「ビジネスウーマン アワード」は、キュレーターの長谷川 祐子氏が受賞をした。長谷川氏は、2016年にフランスの「芸術文化勲章シュヴァリエ章」を受章しており、その際に「女性アーティストを取り上げる姿勢」について大きな評価をされた人物だ。

Veuve Clicquot / 左:御手洗瑞子氏、右:長谷川祐子氏

 また、マダム・クリコの大胆さ、勇敢さを体現、ビジネスにおける新規性をもって将来のさらなる活躍が期待される女性に贈られる「ニュージェネレーション アワード」には、震災後の気仙沼で気仙沼ニッティングをゼロから立ち上げた御手洗瑞子氏が受賞をした。御手洗氏は、「私が気仙沼ニッティングを起業したのも27歳。マダム・クリコが事業を継承したのと同じ歳でした」「シャンパンとは濁ったものという常識を、マダム・クリコは動瓶台を作ることで変えました。夢を実現するために必要なことは非常にシンプルで、具体的で、地に足の着いたアイデアであると思います。私たちも地に足を付けて、大きな夢に向けて頑張っていきたいと思います」と受賞に際してコメントをした。

Text by 酒田 宗一