ダイヤ市場の巨人、ついに人工ダイヤ販売へ 180度方針転換の理由とは?

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 世界最大の採掘会社としてダイアモンド・ビジネスを牛耳ってきたデビアス・グループは、人工ダイヤモンドをジュエリー市場に投入すると発表した。これまで天然以外は売らない方針を堅持してきたが、消費者の嗜好の変化や競合他社の影響で、方針転換を迫られた形だ。

◆本物志向から一転 人工市場に参入
 デビアスは、南アフリカで19世紀に巨大ダイヤモンド鉱山が発見された後、その採掘ビジネスで成功したビジネスマン、セシル・ローズが築いた会社だ。60年間にわたりダイヤモンドの需要と供給をコントロールし、事実上市場を独占していたが、2000年にそのモノポリーを終結させ、現在はダイヤモンド原石の採掘とマーケティングを主要事業としている。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、世界のダイヤモンドの30%を供給し、今でも業界をリードしている。

 米CBSによれば、デビアスは天然にこだわり、長らく実験室で作られる人工ダイヤモンドに否定的だった。希少だという認識を背景に、天然ダイヤの需要と価値を高めてきたからだ。そのデビアスが、ライトボックス・ジュエリーという新会社のもと、ピンク、ブルー、ホワイトの人工ダイヤモンドの販売に乗り出した。価格は安いものなら200ドル(約2万2000円)程度、1カラットでも800ドル(約8万8000円)だという。

◆永遠より今? 消費者のニーズも変化
 デビアスを180度の方針転換に向かわせたのは、消費者側の変化だ。同社は「ダイヤモンドは永遠の輝き」というキャッチコピーで高価な婚約、結婚指輪中心にグローバル市場を築いてきたとNYTは述べる。しかしライトボックスのマーケティングを率いるサリー・モリソン氏は、最近は自分のためにダイヤモンドを買う女性も多く、本物のシリアスな重みを求めない人も多いと話す。ライトボックス商品は、そんな消費者のための遊び心あるアクセサリーということだ。ブルース・クリーブCEOはニュースリリースの中で、「手ごろな価格のファッション・ジュエリーは“永遠”ではないかもしれないが、“今”パーフェクトな商品だ」と話している。

 CBSは、デビアスのより安価なジュエリーへの動きは、多額の学資ローンを抱え、給料の増えない若い消費者の可処分所得が少ないことを認識した結果とも言えるとしている。また一部の消費者にとって人工ダイヤモンドは、過酷な環境のもとで採掘された天然物に代わる倫理的な商品だとも指摘している。

◆価格でライバルを潰す 老舗の新たなる野望
 ダイヤモンド業界のアナリスト兼コンサルタントのポール・ジメニスキー氏は、人工ダイヤモンドの質が向上して価格が低下してきたことにより、市場がここ十年で成長したこともデビアスの決断に影響したとNYTに述べる。ライバル会社は、人工ダイヤモンド・ジュエリーをより受け入れやすく、また環境に優しい商品として売り出し、価格も抑えて来たということだ。

 実はデビアスは、以前から工業用人工ダイヤモンドを生産しており、高い技術を持っている。50年にわたって蓄積したノウハウとインフラを活用し、これまでより約75%安い人工ダイヤモンド・ジュエリーを供給できるため、ロシアやアメリカのライバル企業は歯が立たないとNYTは指摘している。コア・ビジネスを守りつつ、アグレッシブな価格と鋭いマーケティングで、成長する人工市場でも支配を強めようというのが、デビアスの明らかな目的だと見ている。

 CBSによれば、デビアスの今年の天然ダイヤモンドのセールスは6%減となっている。一方人工物がダイヤモンド市場に占める割合は現在2%ほどだが、2030年までにはその比率は10%まで上がる可能性もあると、シティバンクのアナリストたちは予測している(NYT)。

Text by 山川 真智子