ウォール街がテスラに懸念を抱く理由 信頼揺るがしたマスク氏の言動

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 スペースX社のトップとして、イーロン・マスクはこれまで火星軌道へのロケットの打ち上げやニューヨーク-ワシントン間を高速で移動できるようにするトンネルの建設への挑戦など数々の実績を収めてきた。これにより疑いの目で見ていた人々も彼の信奉者へと変化してきた。テスラ社のCEOとしても、電気自動車に対する彼の意欲的なビジョンは揺るぎない支持を集めている。

 しかし、今やウォール街は同社が利益を上げられるというマスクの主張により懐疑的で、現実的な見方をしている。テスラ社は最終的に、同社の新株の売却や借り入れの増加を余儀なくされ、保有する現金が減少するおそれがある。

 アナリストとの電話会議で第1四半期の業績とマスク氏の発言を公にした翌日の5月3日、テスラ社の株価は5.5%下落し、多くの投資家が頭を悩ませた。

 5月4日には、テスラ社の株価は下げ幅の一部を回復する形で3.4%上昇し、294.09ドルとなった。同社の株価は過去5年間で4倍以上に上昇している。同期間にS&P 500は約65%上昇した。

 しかし懸念は残っている。かつて投資家から愛されたテスラ社について、ウォール街が行った急を要する指摘をいくつか見てみたい。

2月6日にフロリダで開かれた記者会見で話すイーロン・マスク(AP Photo / John Raoux)

◆資金ショートのおそれ
 テスラ社は黒字ではない。これは、支払いに手元資金を使わなければならないことを意味する。投資家の大きな懸念は、果たして十分な資金があるのかということだ。

 自動車の生産、販売員への人件費、事業にかかるその他の費用を捻出するため、テスラ社は本年の第1四半期に4億ドル近くを拠出した。設備投資およびその他の投資計画には6億5600万ドルを費やし、合わせて10億ドルをわずかに上回った。

 アナリストは、この現状を「負のフリーキャッシュフロー」と呼ぶ。テスラ社の預金残高は3月末に27億ドルまで減少した。同じペースで支払いを続けていると、1年以内に現金が尽きる可能性があり、株式の売却や借り入れの増加を余儀なくされる可能性がある。

 テスラ社側は、そうしたことは起こらないと主張している。本年の下半期には、同社は支払額より多くの現金を手に入れる計画である。そのうちの一部は、機械や設備、またその他の資本的支出の削減により実現する予定だ。

◆負債
 支出を抑えることは効果的であるが、それでもテスラ社はこの一年間かなりの額の負債を支払わなくてはならない。

 ムーディーズのアナリストであるブルース・クラークによると、テスラ社は本年の下半期から2019年の初めにかけて13億ドルの負債を返済しなければならない。返済費用を賄うには20億ドルを新たに借り入れるか、その分の収益を充当しなければならない。

 モーニングスターのアナリストもまた、テスラ社の支出と負債への依存を懸念している。

 先月、モーニングスターの株式戦略担当者であるデイヴィッド・ウィストンは、テスラ社がより多くの収益を上げる必要があることは「ほぼ確実」であると書いた。

「しかし、株式市場がテスラ社を見捨てると、最近の株価の急落はその後の状況に比べると取るに足らない問題だとわかるだろう」とウィストンは書いた。

◆生産上の課題
 テスラ社自身は、本年の下半期には黒字に転じると予想している。しかし、それは大きな「もし」に依存している。黒字化するためには、モデル3の電気自動車の生産ペースを週に5,000台まで増やさなければならない。同社によると、約2ヶ月でこの水準に到達することが可能だ。 4月中旬に行われた計画停止の直前には、モデル3の生産ペースは週に2,000台以上であった。

 この目標を達成するため、テスラ社は生産の自動化にまつわる問題を解決しなければならない。これはテスラ社によると、「機械を生産するための機械」を必要とするプロセスである。

 5月2日、テスラ社は問題解決のための努力があまりにも野心的にすぎ、「急にたくさん自動化しすぎたため失敗してしまった」と認めた。 一例としてマスクが挙げたのは、バッテリーの上にファイバーグラスを敷く機械であった。マスクによると「マシュマロクリームのような」ファイバーグラスを取り上げるためには、人間の手のほうが機械よりも優れていたようだ。

 このためテスラ社は 「ファイバーグラスロボット」の使用を中止するとともに、他の領域でも自動化を差し戻して人間の作業員と交換した。それはコストを引き上げ、テスラ社が車から得られる利益を減らすことにつながる。

◆投資家からの信頼
 テスラ社の株価の大部分は、マスクへの信頼に支えられている。

 かつてPayPal(ペイパル)を育てたことがあり、スペースXではロケットや宇宙船を打ち上げているCEOならば、自動車業界に革命を起こすかもしれないという期待で投資家はテスラに多額の投資を行っている。

 しかし、5月2日に行われたウォール街のアナリストとの電話会議でのマスクの行動によりその信頼の一部が揺らいだかもしれない。

 あるアナリストがテスラ社の幹部に会社運営に関する通常の質問を浴びせ続けていた時、マスクは「退屈で間の抜けた質問はよろしくない」と言って質問を却下した。その後、彼はアナリストからの「つまらない」質問を「いい加減にしてくれ」と言って遮った。その代わりに、YouTubeチャンネルを運営している自称「経済オタク」が個人投資家に代わって行った質問に答えた。

 ウォール街のアナリストたちは、このような発言を快く思っていない。

「投資家の評価は、こうした振る舞いがテスラ社の生い立ちの上で大切だった信頼を揺るがしたというものです」とRBCの株式市場アナリストのジョセフ・スパックは報告書で述べた。

 モルガン・スタンレーのアナリストであるアダム・ジョナスは、「間違いなく、私が20年間で経験した会議の中で最も普通でない会議でした」と述べた。

By STAN CHOE and ALEX VEIGA, AP Business Writers
Translated by Y.Ishida

Text by AP