変わるアメリカのショッピングモール 消費の中心から体験・生活型へ

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 アマゾンなどのオンラインリテールが人気となり、EC(電子商取引)が普及するなか、アメリカの大型ショッピングモールが苦戦している。かつては消費を謳歌するアメリカンライフの中心だった多くのモールからは客が消え、「小売業の終末」の前兆だと危惧する声もあるが、改装、再開発を経て、現代のニーズに合った施設へと変貌を遂げた成功例も報告されている。

◆大型店続々撤退。ショッピングモールが危機に
 CNNは、メイシーズ、JCぺニー、シアーズといった主要テナントが、アメリカ各地のショッピングモールから続々と撤退していると報じている。大型店の集客力から恩恵を受けていた同じモールに入居する小型店には大打撃だが、問題はこれだけではない。実は小売店の多くは、大型店が撤退した場合、賃料を減額するか賃貸を解消することができる契約を結んでおり、モールの運営会社にとっても減収を意味する。専門家は体力のないモールが、このような「死のスパイラル」に今後陥っていくことを予測しているという。

 カリフォルニア大学バークレー校のクリス・カロット教授は、モールの衰退はECによる影響が大きいと指摘するが、同時にアメリカの小売スペースが大きすぎるという問題も上げている。アメリカでは、ネットが小売りの背景を変え始めた1990年代から2000年代中頃でさえ、続々とモールが建設された(Smithsonian.com)。ウェブ誌『City Lab』によれば、アメリカの1人当たりの小売スペースは、日本とフランスの4倍、イギリスの6倍、イタリアの9倍、ドイツの11倍だという。カロット氏は、1960年代から1980年代に建設されたモールの半分は、今後5年以内になくなると見ている(Smithsonian.com)。CNNは、現在存在する1100のモールのうち、300はこの5年以内に閉鎖されるという専門家の予測を紹介している。

◆モールも変化が必要。多様なニーズを満たす場所へ
 不振が続いたモールの中には、ショッピング以外の需要に対応する「ライフスタイル・センター」として見事に再生したものもある。その例として上げられているのが、ノース・カロライナ州チャペル・ヒルの「ユニバーシティ・プレイス」だ。10年前には閑古鳥が鳴いていたというこのモールでは、ショップに加え、スポーツ施設、学校、ラジオ局、交番、子供博物館をテナントに迎えた。グルメ・フードコート、カフェ、料理教室、そしてレザーシートに座って食事できるワンランク上の映画館も入居している。吹き抜けの中庭では無料のWi-Fiを提供し、地元の学生がソファでゆったりと勉強できるスペースも設けた。暖かい夜には、サイドウォークに並んだメキシコ料理の屋台で、談笑しながらマルガリータをすする人々で賑わうという(Smithsonian.com)。

 ショッピングモールというコンセプトから完全に脱却し、広大な敷地を利用して、アパート、教会、学校に変身したモールもある。また、皮肉にもモールを衰退させたとされるアマゾンなどの倉庫として活用される例もあるという。今後リテールスペースが減少するのとは対照的に、流通・物流の施設はさらに必要になると見られ、雇用の創出も伴う倉庫化は、閉鎖したモール側からは歓迎されているという(Smithsonian.com)。

 モールの中には、完全に解体されるものもあるが、非常にコストのかかる選択であるため、解体後に土地の価値が上がる場合のみだという。結果として、地方の体力なない自治体では、廃墟化したモールが増えるという問題もあるようだ(Smithsonian.com)。

◆都市部の商業施設も低迷。今が変革のチャンス
 実は商業施設の衰退は、大都市でも起こっており、高級店の撤退も増えているとCity Labは指摘する。同誌は、昨年10月にオフィスシェアリングのスタートアップ、WeWorkが百貨店チェーン、ロード・アンド・テイラーのニューヨークの旗艦店を買ったことに注目し、今まで高額の家賃が払えるのは大企業だけだったが、WeWorkが提供するオフィススペースに小さな会社やギグ・エコノミーで働く人々がやってくれば、よりリーズナブルな住宅や商業施設への需要が生まれ、新しいコミュニティが誕生すると期待している。

 同誌は、もともと商業施設の整理はもっと早くにやっておくべきだったと見ている。しかし都市であれ郊外であれ、現在の小売りの縮小は厳しいものだが、実店舗が無くなることはなく、苦境が次のチャンスを作り出すとしている。

Text by 山川 真智子