月10ドルで映画見放題の「ムービーパス」、ビジネスとして成り立つ? 上がる疑問の声

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 1ヶ月約10ドルで映画館に通い放題となる「ムービーパス(MoviePass)」がアメリカで話題を呼んでいる。1日1本までという制限はあるものの、毎日映画館で鑑賞を楽しめる魅力的な会員制サービスだ。2011年に開始した同サービスだが、今年8月に大幅な値下げに踏み切ったところ、加入者数を一気に100万人まで伸ばした。映画ファンらの支持を集める反面、あまりの格安料金に事業継続を疑問視する声も出ている。

◆停滞からの急成長
 ムービーパスの使い方はシンプルだ。同社ウェブページによると、会員は映画館に出向き、専用のスマホアプリから作品と時間帯を指定する。あとは窓口で会員証を提示すれば、無料で鑑賞券の発券を受けられる仕組みだ。アメリカのおよそ4000の劇場が対応している。

 2011年創業の同社だが、ユーザーの獲得に長年頭を悩ませてきたようだ。21世紀フォックス傘下のフォックス・ビジネス誌によると、同社は以前月額50ドルでサーピスを展開してきたが、有料会員は2万人前後に留まっていた。今年8月に大幅に値下げして9.95ドルにしたところ加入者が急増し、5ヶ月で100万人を超えたとのことだ。

 同社の急激な成長に対抗する動きも出ている。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、テキサス州のプラーノ社が、月額9ドルの会費で月1本を鑑賞できるほか、映画チケットを割引購入できるというサービスを展開している。ただし見放題というわけではないため、ほぼ同額で月間最大30本前後を鑑賞できるムービーパスに大きく分がある状況だ。

◆事業継続なるか
 あまりの大盤振る舞いに、採算性を疑問視する声もある。CNBCのニュース番組では、スタジオに招かれたムービーパスCEOのミッチ・ロー氏に対し、キャスターらが次々と質問を投げかけた。ロー氏の説明によると、会員が購入したチケット代金は、ムービーパス側から劇場に支払っているという。都市部の劇場の鑑賞料金は15ドル前後のため、ユーザーが月に1本でも鑑賞すれば同社の赤字となる計算だ。採算が取れないのではと指摘するキャスターに対し、まずはミレニアル世代に映画館に来てもらうことが目的だとロー氏は説明する。次第に知人らを同社の提携劇場に連れてきてくれるようになれば、エコシステム全体として収益を上げられるという。

 また、『ザ・ヴァージ誌』(12月20日)によると、農村部の(比較的入場料の安価な)劇場にユーザー層が拡大することで、都市部でのマイナスを相殺できるとロー氏は考えているようだ。ただし記事は、「ムービーパスはたった数ヶ月の短い期間で成長したが、会員と映画チェーンらはビジネスモデルに疑いの目を向けている」との厳しい状況も伝えている。

◆価格は魅力だが……
 実際の会員からの評価はさまざまだ。フォーブス誌では、映画プロデューサーでありムービーパスのユーザーでもあるロブ・カイン氏の寄稿記事を掲載している。年間契約だと月あたり7.5ドルという「大げさに言えば泥棒」のような値段になるため、契約する価値はあるという。しかし事業の継続性について氏は懐疑的であり、万一サービスが中断すれば、一括払いした年会費が無駄になるリスクもあるようだ。また、当日まで予約できない点や、3D作品が対象外であることなどに不便を感じ、すでに退会した知人もいるとしている。

 テクノワイズ誌では、ムービーパスのアプリの使用が映画館付近に制限されている点などを欠点に挙げている。加えて、1日1本という制限のため、1人分のチケットしか発券することができない。そのため、1人で映画を観る人には良いサービスなのではないかと結論づけている。

 様々な制限はあるものの、毎日劇場に通えるというのは大きな魅力だ。サービス継続で映画ファンの間口を広げるためにも、今後の収益化が問われている。

Text by 青葉やまと