BRICSの次に台頭が期待される国々、TACTICSとは

 日本では大学設置に関する規制緩和により大学の乱立が相次ぎ、しばしば高等教育の意義や水準に関する議論を耳にする。そんな高等教育のあり方が問われる今日、Times Higher EducationはCentre for Global Higher Education at the UCL Institute of Educationとの共同研究で、高等教育の観点から注目すべき次世代の7ヶ国「TACTICS」を挙げている。急成長の新興経済群としてBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の概念が紹介されて久しいが、TACTICSは「BRICSの次に台頭する可能性の高い国々」として紹介されている。

 TACTICSとは、タイ、アルゼンチン、チリ、トルコ、イラン、コロンビア、セルビアの頭文字を取った総称である。これらの国の大学は、最低でも一つTimes Higher Educationの発表した世界の大学ランキングにランクインしている。また量的側面としては、どの国も一人当たりGDPが1万5000米ドル以下でありながら高等教育への粗就学率(または総就学率)は50%を超え、研究発表の数も増加傾向にある。比べてBRICSは高等教育への粗就学率は総じて低く、ロシア以外は50%を割っている。これらは序文でも紹介したTimes Higher EducationとUCLの機関によって行われた調査で明らかにされた。

 もちろん、高等教育を量的側面のみで判断するのは難しく、質的側面にも着目する必要がある。例えば、政治的腐敗の度合いと研究の質の相関関係を示すデータも存在する。Times Higher Educationがトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)という非政府組織が測定するTI世界腐敗認識指数(CPI)ランキングとElsevier社が考案した分野補正後の相対被引用度を示すField Weighted Citation Impact(FWCI)を相関させたグラフでは、CPIランキングが低いほどFWCIも下がっていることが確認できる。なお、TACTICSにおいてはチリ以外はCPIが低く、またBRICSのCPIも比較的低い傾向にあり、質的側面には課題があることが窺える。

 TACTICSはそれぞれに課題を抱えているものの、一貫して高等教育に対して積極的な姿勢であると言えるだろう。そして、高等教育は経済成長へのインフラであり、将来の経済成長が期待される。1960年から2010年にかけての78ヶ国・1500近い大学を対象にしたLondon School of Economics(LSE)の研究では大学の経済的影響力が調査され、大学数と未来の経済指標の間に正の相関が示された。大学数が倍になった地域では5年以内に一人当たりのGDPが4.7%増加していたのだ。課題への対応次第では、TACTICSは高等教育の充実を背景に、経済分野においてもBRICSを追い越すかもしれない。

 日本経済はもはや成長経済でなく成熟経済であり、ただ大学数を増やしても大きな経済的波及効果は望めないだろう。それでもLSEやTimes Higher Educationの行った調査は経済的観点も含めて高等教育の重要性を強く示唆する。成熟国である日本においては、特に高等教育のさらなる質の向上が経済成長に繋がるのではなかろうか。

photo via CC0 Public Domain

Text by 大西くみこ