排ガス問題:日本メーカー3社も規制値超え 懸念される日本ブランドへの影響

 フォルクスワーゲンの排ガス不正問題で欧州自動車業界が揺れる中、実際の路上環境下のテストで、日本メーカー3社を含む4社(メルセデス・ベンツ、ホンダ、マツダ、三菱)のディーゼル車の排気ガスから、規制値を大幅に超える有毒成分(NOx=窒素酸化物)が検出された。英紙ガーディアンが、英民間分析会社の最新データをスクープした。また、同紙の別の記事によれば、ドイツ自動車連盟(ADAC)が取りまとめた路上環境検査でも、他の欧州メーカーなどに混じって日産・ルノー車のデータも基準値を大幅に超えた。これらの結果を受け、欧州では、「VWのスキャンダルは氷山の一角だ」「自動車業界全体の構造的な問題だ」と、「クリーンディーゼル」そのものを疑問視する声が上がっている。

◆テスト環境ではなく実際の走行では…
 今回、ガーディアンが新たに報じたのは、英排ガス分析会社『Emissions Analytics』が、実際の路上での走行環境下で行った排ガステストの結果だ。各国の公式な排ガステストは室内環境下で行われており、路上環境下の方が厳しい結果が出る傾向にある。業界ロビー団体の欧州自動車工業会(ACEA)は先日、現在の規制値(EURO6)を路上環境に当てはめるには、70%ほど厳しい規制値を設けなければならないという見解を示している。つまり、『Emissions Analytics』の分析結果は「違法か適法か」を意味するのではなく、あくまで「走行実態に沿った指標」だということだ。

 4社のディーゼル車の分析結果の概要と各社のコメントは以下の通り。

・(ホンダ)規制値の2.6倍から6倍の平均0.484g/kmのNOxを検出。「ホンダは、ヨーロッパの規制値に合わせてテストしている」
・(マツダ)規制値の1.6倍から3.6倍の平均0.293g/kmのNOxを検出。EURO6対応のある最新4WD車は3.6倍だった。「法令遵守の精神に基づき、マツダは全てのディーゼル車、ガソリン車が規制に沿うよう、多大な努力をしている」
・(三菱)規制値の1.5倍から3.4倍の平均0.24g/kmのNOxを検出。「NEDC(新欧州ドライビングサイクル=現行の標準)は、路上環境を対象としたことはない」
・(メルセデス・ベンツ)EURO5の2.2倍、EURO6の5倍に当たる平均0.406g/kmのNOxを排出。「路上環境下と実験室の結果は合致しないのが普通だ」

 一方、ADACの調査では、ルノー、日産、ヒュンダイ、シトロエン、フィアット、ボルボ、マツダなどのディーゼル車が規制値を超えた。日産と業務・技術提携関係にあるルノーは特に成績が悪く、『エスパス dCi 160』がWLTC(導入が検討されている実際の走行環境に近づけた世界標準)の11倍とワースト2位、同社の『グラン・セニック』『カジャール』もワースト10に入った。『Emissions Analytics』、ADACのいずれのテストでも、メーカーを問わず4WD車の成績が特に悪かった。

◆排ガス規制強化に業界・政界が激しく抵抗
『Emissions Analytics』のニック・モールデン氏は、路上環境下でディーゼル車の排ガスが規制値を大幅に上回るのは、自動車業界全体の問題だとしている。排ガス削減に取り組む英市民団体『Transport & Environment』のグレッグ・アーチャー氏も、今回のテスト結果を受け、「VWのスキャンダルは氷山の一角だということだ」とガーディアンに語っている。ガーディアンは、「各車種のNOxレベルはイギリスのほとんどの地域の規制値を超えた違法レベルにある。それによって、何千もの死や何10億ポンドもの医療費を強いられたと思われる」と手厳しい。ただし、各社がVWのように故意に数値を偽る不正をしたかどうかは、「証拠がない」としている。

 ヨーロッパでは近年、欧州議会議員らが中心となって、「実験室基準」ではなく、大気汚染の実態に即した規制値の導入を働きかけている。そのリーダーでもあるイングランド南部選出のキャサリン・ベアダー欧州議会議員によれば、「私たちはEUの排ガス規制を改革するために戦っているが、強力な自動車ロビーと各国政府の激しい抵抗に遭っている」という。

『Transport & Enviroment』のアーチャー氏は、こうした政界と業界の癒着を踏まえ、次のようにガーディアンに語る。「唯一の解決策は、新たな厳しい路上テストを導入することだ。しかも、それは、自動車業界がスポンサーについていない第三者機関によって行われなければならない」。一方、ACEA会長でもあるカルロス・ゴーン日産・ルノーのCEOは、現状では、少なくとも2019年までは規制の強化は難しいとの見解を示している。

◆「日本ブランド」は大丈夫?
 ドイツでは、自国の産業を代表するVWの不正により、「ドイツブランドの低下」を心配する議論が出ている。ドイツメディア、ドイチェ・ヴェレ(DW)は、各種ランキングを発表している『Brand Finance』の「国家ブランドランキング」で、ドイツのブランド価値が既に下がっていると指摘している。

「国家ブランドランキング」は、その国の主要企業のブランド力やGDPを元に算出される。世界3位のドイツは、VWのスキャンダル以降、約1910億ドル分(約4%)価値を下げた。最新の数値は約4兆2000億ドルとなっている。『Brand Finance』によれば、今年前半にはVW単独で310億ドルのブランド価値があったが、スキャンダルで100億ドル分を失ったという。

 ちなみに、2015年の「国家ブランドランキング」では、日本は5位となっている(1位アメリカ、2位中国、3位ドイツ、4位イギリス)。昨年と順位は変わらず、2兆5410億円のブランド力は、前年比+3%だ。しかし、ガーディアンの記事で4社の日本メーカーの名前が上がっているように、排ガス問題が飛び火すればドイツ同様自動車大国である日本のブランド力も大きく下がる恐れがある。実際、『Brand Finance』は、これまでに国のブランド価値を最も下げたのは2009年から2011年にかけてのトヨタの一連のリコール問題だったと報告している。それだけに、VWの不正を発端とする欧州の排ガス規制強化の動きは、日本にも大きく影響しかねない問題だと言えそうだ。

Text by 内村 浩介