日経の英FT紙買収、海外はどう報じたか? 日本とのジャーナリズムの違いに懸念

 日本経済新聞社は、イギリスの経済紙、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを買収すると発表した。海外メディアは、まさに予想外と言える今回の発表を大きく取り上げるとともに、懸念の声も紹介している。

◆買収交渉は、つい最近始まった
 当事者であるFTは、グローバルメディア業界が激変する中、今回の買収で現在の親会社ピアソンとの58年間の歴史に幕が下ろされると報じた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によれば、ロンドンに拠点を置くピアソンは、このところ業績が芳しくなく、2年間のリストラ計画を完了したばかり。FTを売却し、収益の4分の3を占める教育事業に集中することを望んでいたという。

 日経とともに、買収に名乗りを上げていたのは、ドイツのメディアグループ、アクセル・シュプリンガー社で、約1年前からピアソンと話し合いを重ね、有力視されていたという。対照的に、日経との交渉が始まったのは、わずか5週間前。しかし、交渉の土壇場で8億4400万ポンド(約1600億円)を提示し、FTと合意に至った(FT)。WSJによれば、アクセル・シュプリンガー社は財務に慎重なことで有名。買収で考慮すべきは適正価格であるという考えであるため、日経の提示額は高すぎると判断したのかもしれない。日経にとっては、今回が海外における過去最大の買収だとWSJは述べている。

◆狙いは、デジタル化とグローバル化
 日経は、買収を発表したプレスリリースの中で、有力経済紙FTを傘下に収めることで、デジタル化、グローバル化を推進したいとしている。

 英テレグラフ紙のコラムニスト、マリオン・デーカーズ氏は、日経とFTは経済紙としては類似性があるが、読者の多くがデジタルに移行しているFTと比べ、デジタルの有料購読者40万人、国内での朝刊発行部数が300万部の日経は、紙への依存度がまだまだ高いと指摘する。WSJによれば、2014年のFTの購読者数は72万人と、前年比で10%増加。有料のデジタル購読者は、50万人を超え、全体の70%に達している。

 英ガーディアン紙の社説も、購読者が高齢化する日本においては、紙の新聞の衰退は必至と指摘。世界有数の質を誇り、収益も上げるFTというグローバル・デジタル・ブランドを日経が狙ったことは、理解できると述べている。

◆日本のメディア文化の特殊性
 多くのメディアが懸念するのは、日本と西洋のメディア文化の違いだ。

 テレグラフ紙のデーパーズ氏は、日経には特権的アクセスが与えられるような深いつながりが企業や政府との間にあると指摘。また、しばしば証券取引所への告知前に、企業収益に関する内容を掲載しており、情報リークの懸念をかき立て、企業の透明性を高めようとする政治家の努力を阻害すると述べる。

 ガーディアン紙は、オリンパスの粉飾決算問題を最初に報じたのはFTだと述べ、日経は事件に触れざるを得なくなるまで報道しなかったと指摘。タカタのエアバックのリコール問題を追ったのも、ニューヨーク・タイムズ紙であったと述べる。同紙は、日本のジャーナリズムは礼儀正しいが、その姿勢がスキャンダラスな行いを助長させる、ある種の権力への無関心な服従へと変化する可能性もあると述べ、すべてに礼を尽くす訳にはいかない、アングロサクソン的ジャーナリズムとの違いを説明している。

 フォーブス誌に寄稿した、FTの元編集者、イーモン・フィングルトン氏は、日本のメディアに辛辣だ。同氏は、英語使用者のセンスにおける自由報道など、日本には存在しないと主張。メディアは愛国主義的日本の官僚主義にコントロールされた機関だと述べる。そして、重要な問題は、FTがどの国のために報じるのかということで、いやおうなしに、FTは日本の権力のもう一つの機関となる運命であるようだと述べている。

Text by 山川 真智子