トヨタ役員辞任、多様化戦略に打撃 海外“グローバル企業化には5~10年必要”とも

 トヨタ自動車の常務役員で米国籍のジュリー・ハンプ容疑者(55)が、麻薬成分を含む錠剤を密輸したとして、麻薬取締法違反(輸入)の疑いで6月18日、警視庁に逮捕され、取り調べを受けていたが、30日付で辞任した。トヨタ自動車が7月1日発表した。ハンプ容疑者は4月に就任したばかりで、トヨタの最高ランクの女性幹部として広報を担当していた。海外メディアはハンプ容疑者の逮捕当初から海外メディアは強い関心をもって報じており、辞任のニュースも英BBCなどが「トヨタの役員が薬物スキャンダル後に辞任」などと速報した。

 ハンプ容疑者は6月11日、米ケンタッキー州の空港から成田空港に、麻薬オキシコドンの錠剤57錠を国際郵便で輸入した疑いが持たれている。6月23日には警視庁が愛知県豊田市のトヨタ本社や東京本社など数か所を家宅捜索する事態に発展するなど、国内外に衝撃が広がっている。

◆目玉人事暗転の衝撃
 海外の報道は、トヨタが豊田章男社長の掲げる「経営陣の多様化(ダイバーシティ)」を推進するための目玉人事としてハンプ容疑者を女性幹部として最高位のポジションに抜擢したにもかかわらず、薬物がらみの容疑で逮捕されるという不名誉な事態を招いたことを主に問題視している。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は「トヨタのダイバーシティ戦略は後退の苦しみにある」と報じた。

 またFTは危機管理の専門家のコメントを引用して、「ハンプ容疑者の辞任は、事件の取り調べに関連してトヨタ本社が家宅捜索されるなど、会社の社会的評価に傷がついたことを考慮すれば避けられなかった」と指摘した。さらに別の専門家の意見として「トヨタは起用する外国人役員に対して(薬物をめぐる)文化的な違いについて教えるべきであったし、重要な役職に任命するにあたっての人物チェックの手法を改善する必要がある」と指摘した。

 こうした文化的な違いによるリスクについて、ニューヨーク・タイムズ紙は、ハンプ容疑者の逮捕時点から、日本のアメリカ大使館がインターネットサイトで米国人向けに、個人使用の薬物について、郵送や持ち込みには十分注意するよう呼びかけていたことを指摘。そして「日本の法律に従わない場合、逮捕や勾留されることもあるうる」と警告していることも紹介していた。

◆練り直し迫られるトヨタのグローバル戦略
 常務役員が逮捕されるという未曽有の事件に、真のグローバル企業を目指しているトヨタの評価は傷つけられたと指摘する海外論調も多い。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「ハンプ容疑者の辞任はトヨタの組織上の問題を反映しているものではなく、個人的な問題」という自動車アナリストのトヨタ擁護のコメントなども一部紹介しているが、記事全体では、北米での2009年のリコール問題以来、豊田章男社長が進めていた改革に冷や水をかけ、傷つけているというトーンが支配的だ。

 FTは、ハンプ容疑者の逮捕直後に行われた豊田社長の記者会見に関連して、「トヨタは真のグローバル企業になるという目標を達成するための産みの苦しみをさらけ出した」と評したほか、欧州系経営戦略コンサルタントの話として、「トヨタがグローバル企業になるためには、もうあと5年から10年が必要となる」とのコメントを紹介した。

 トヨタは1日発表したプレスリリースで「世間を大変お騒がせし、多くの方々にご心配やご迷惑をおかけしていることを勘案し、ハンプ氏の(辞任)届を受け入れることといたしました」との声明を発表した。発表は極めて日本的なスタイルで、しかも日本語のみのリリースで、英訳されなかった。トヨタは声明の中で「『真のグローバル企業』を目指し、国籍、性別、年齢などに関わらず、多様性を尊重し、『適材適所』の考え方に基づいた人材登用を今後も進めてまいる所存です」とも言及している。想定外の不祥事を受けてトヨタは自身のいう「真のグローバル企業」に本当に脱皮できるのか。トヨタ全体でさらなる「カイゼン」が必要なのかもしれない。

Text by NewSphere 編集部