トヨタ、国内初の純利益2兆円 北米・中国の生産力拡大、脱無個性が持続的成長に必要と海外

 上場企業の3月期決算発表が相次ぐ中、トヨタ自動車は8日、2015年3月期通期の連結決算を発表した。売上高が前期比6%増の27兆2345億円、営業利益が20%増の2兆7505億円、最終利益が19.2%増の2兆1733億円で、いずれも過去最高を記録した。最終利益が2兆円を超えたのは、日本企業としては初めてのことだ。

◆コスト削減と為替差益が利益を押し上げた
 同社は決算要旨で、原価改善の努力により2800億円、為替変動の影響により2800億円、営業利益が押し上げられたと分析している。多くの海外メディアも、コスト削減と円安ドル高が、過去最高の業績の要因だったと伝えている。

 ブルームバーグは、安倍首相の経済政策が円安を助長しているため、海外市場での販売台数増加は、トヨタにとって恵みだった、と語る。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によると、アメリカでは、同社のSUVやピックアップトラックといった車種の販売が、燃料価格の下落に支えられて、特に好調だという。ロイターは、北米がトヨタの最大の市場であり、また北米での販売は利益の上がるものだとしている。

 2015年3月期、北米での販売台数は271.5万台で、前期より18.6万台増えていた。反面、日本での販売台数は、21.1万台減の215.4万台だった(いずれも連結販売台数)。

◆急拡大よりも持続的成長。トヨタの「意志ある踊り場」
 トヨタはかつて、北米を中心に、生産力拡大を積極的に進めていたが、それがたたって、2008年のリーマンショック後の需要低迷では大きな痛手を受け、2009年3月期には赤字に転落した。

 また、AP通信は、トヨタ自動車創業者の孫である豊田章男氏が、2009年に社長に就任して以来、トヨタは、主にアメリカで大規模なリコール騒動に巻き込まれ、苦しい時期をしのいできた、と語る。

 以来、トヨタは、拡大よりも、品質や能率の向上などに取り組んで「持続的成長」を目指すようになっている。2013年4月からは工場の新設を凍結している。そういった取り組みを続けていた折、豊田社長は昨年5月の決算会見で、「思い切った変革や将来の成長に向けた種まきを積極的に進め」る時期だとして、これを「意志ある踊り場」と表現した。

 AP通信は、トヨタはリコールが明るみに出て以来、工場新設といった拡大の凍結を発表し、その代わりにコスト削減、品質管理、教育訓練、既存工場の活用に集中してきた、と語る。WSJ紙は、「意志ある踊り場」にいる間、トヨタは新工場への投資を凍結し、自動車設計と製造関連の新技術の開発に焦点を置いていた、と語る。

◆3年連続で年間販売台数が世界一。しかし今後、生産力の不足が顕在化する?
 そのような経営方針が、今回発表された好業績につながった一方で、トヨタには今、生産力不足という問題も迫っている。

 ブルームバーグは、トヨタは北米では生産力不足に直面しており、中国では、現地での生産能力が他社と比べて限られていることもあって、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズ(GM)といったライバル会社に後れを取っている、と語る。トヨタが中国で販売台数100万台を達成したのは、2014年のことで、計画よりも2年遅れていたという。一方、VW、GMは、トヨタの3倍以上の台数を販売している。さらにVWには、中国での生産台数を、2019年までに年間500万台にする計画があるという。

 AP通信は、トヨタは、VW、GMとの厳しい競争にもかかわらず、過去3年間、年間販売台数世界一の座を保っている、と伝える(暦年)。ロイターは、生産台数に限りがあることで、VWに世界一の座を譲り渡すことになってしまうかもしれない、と語る。2014年度(会計年度)では、すでにVWに抜かれているとWSJ紙は伝える。

◆「意志ある踊り場」を踏み出し、いよいよ実践のときへ
 それゆえトヨタは、今まさに「意志ある踊り場」から歩み出そうとしている。トヨタは先月、メキシコに新工場を建設、中国の既存工場に新たな生産ラインを設けると発表した。生産能力は、それぞれ年間約20万台、年間約10万台となる。トヨタはこの計画によって、自ら課した拡大の凍結を終わらせた、とロイターは語る。

 またトヨタは、リコール騒動後、「Toyota New Global Architecture」(TNGA)を発表した、とAP通信は伝える。トヨタによると、これは「商品力の飛躍的向上と原価低減を同時に達成するトヨタの新しいクルマづくりの方針」である。AP通信は、製品開発を合理化して重複を避け、技術と部品の共通化を促進するものだ、と説明する。それによって、異なる市場、さまざまな顧客に合わせることが可能になる一方、無駄を省くことができる、としている。

 WSJ紙によると、今年発表される新型プリウスが、全面的にこの新プロセスを採用して製造される最初のものになる見込みだという。

 豊田社長は、8日の会見で、「意志ある踊り場から、実践する段階に移ってきた」と語ったという。ブルームバーグによると、「トヨタがどれほど強くなったかを、確かめることができるでしょう」とも語ったという。

「今年はトヨタが持続的成長に向けた歩みを着実に踏み出すのか、それとも、これまで積み重ねてきた努力にもかかわらず元に戻るのか、大きな分岐点になると言えます」と決算の社長あいさつで語っている。

◆今年度も過去最高記録を更新する見通し。ただし上げ幅は控えめ
 8日の決算発表では、2015年3月期の実績と同時に、2016年3月期、すなわち今年度の見通しも発表された。それによると、売上高は前期比1%増の27兆5000億円、営業利益が2%増の2兆8000億円となる見通しだという。ただし、販売台数は1%減の890万台の見通しだ。

 いちよしアセットマネジメントの秋野充成ファンドマネージャーがブルームバーグに語ったところによると、この見通しは非常に控えめなものであるという。今後、上方修正される可能性は十分にあると同氏は考えているという。

 AP通信は、今後のトヨタにとっての課題の一つを挙げている。長年にわたって、トヨタ車は、信頼性が高く、高燃費を達成していると見なされている。しかし、個性がなく、ファッショナブルではないとも見なされている、と記事は語る。

 豊田社長は、華やかさがあって高級感がある、という世評を得る必要性を力説し、その状況を変えようと試みているという。そういった世評は、ヨーロッパとアメリカのライバル会社の一部がすでに得ているものだが、トヨタにとってはいまだに到達しにくいものだ、と記事は語っている。

Text by NewSphere 編集部