日本企業、新卒採用で東南アジアの学生に熱視線 「先例がない」と海外専門サイト注目
日本企業が、東南アジアなど海外での採用の動きを強めているという。現地スタッフとしてばかりではなく、日本で勤務する社員としてもだ。背景には、企業活動のグローバル化、少子高齢化による日本の若者人口減少などがあるという。
◆シンガポールでアジア各国の新卒者を対象に面接会
米ニュース専門放送局CNBCは、三菱UFJフィナンシャル・グループ、東芝といった大手企業が、ここ数ヶ月、世界中で開催される就職説明会に頻繁に出展していると伝える。
HR(人的資源)ニュースサイト「HR in Asia」は、パナソニック、三井住友銀行、ブラザー工業などが、シンガポールに採用担当者を派遣して、アジア各国の大学新卒者を対象とした面接会を行ったことを伝えている。インドネシア、タイ、香港、インド、シンガポールの学生およそ60人が、交通費、宿泊費支給でシンガポールに集められ、7社と面接を行ったという。志望者はそこに至るまでに、主としてSkypeでの面接で絞り込まれていたという。
日本企業が東南アジアまで赴き、日本に連れて帰るために、各国の大学の新卒者を雇うということは先例がない、と「HR in Asia」は語る。これまでのケースでは、日本で学んだ外国人留学生を、海外支社の社員として採用していたばかりだという。
◆日本の若者人口の減少が原因の一つ
「HR in Asia」は、企業が海外の人材を探し求めるようになったのは、日本の人口問題が主要な原因の一つだとしている。低出生率のために、若者世代が減少しており、国内だけでは高水準の志望者を採用することが期待できない。そこで、世界各国の優秀な人材を探し求めるよう、企業の採用戦略が変化してきている、と記事は語る。中でも東南アジアと南アジアは、日本と地理的に近いおかげで採用が容易になっている、としている。
CNBCは、ロイターの最近の調査の結果として、日本企業のおよそ6割が、十分な数の従業員を確保することに、次第に困難を覚えるようになっている、と伝える。人件費高騰により、利益が圧迫されているという。
◆海外に目を向ける企業
また「HR in Asia」は、日本企業が考え方において、より国際的になっていることも、海外での採用活動を強めている理由だとしている。
CNBCは、海外に注目する必要のある多くの企業が、各国のリクルーターを雇うか、事業拡大したいと考えている地域に採用デスクを設置している、と伝える。ただしこちらは、必ずしも日本勤務の話ではない。
そういった意味で、いま最もホットなのは東南アジアとインドだ。世界各地の管理職スカウト(ヘッドハンティング)会社のネットワークBlueStepsのウェブサイトの記事は、ここ数年、日本から東南アジア、インドへの投資が増加している、と伝える。
背景として記事が挙げているのは、日本国内の景気が思わしくないことと、日中関係の悪化により中国への投資熱が冷めていることだ。2012年、中国で起きた反日活動により、多くの企業が、中国戦略を考え直し、中国よりも友好的な国の市場に関心を向け直すことを余儀なくされた、と記事は語る。
また、安倍首相の経済政策、外交政策が、この投資先のシフトをより一層促進しているという。
エコノミスト誌(2014年11月1日号)によると、2013年、日本から東南アジアへの投資は、前年に比べて倍の240億ドル(2兆3千億円)となったが、中国への投資は4割近く減少した、と記事は伝える。そして、日本企業が現地で事業拡大するにつれて、日本式の会社組織の中で働くことができ、多種多様な市場の橋渡しをすることができる人材へのニーズも高まっている、と記事は語る。
◆海外の志望者にとっての日本企業の魅力とは?
一方、日本企業への就職志望者の観点からすると、最大の魅力は、特定のスキルが必要条件とされていないことだとCNBCは語る。他国企業と違って、日本企業の大多数は、新採用者を、研修期間後に特定の部に配属する前に、多方面にわたる職務に当たらせる、としている。
ただし日本語力は、企業が求めるスキルのようだ。「HR in Asia」が紹介した面接会の参加者では、半数以上は日本語をかなりの程度話すことができたという。そして、大多数の企業は、そのことを求めていたと伝えている。
またCNBCは、日本で生活するということも魅力になっていると伝える。人材紹介会社ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパンのマネージング・ディレクターのジョナサン・サンプソン氏は、「日本には(レジャーからインフラまで)必要とされるあらゆるものがあります」と語っている。
ただしCNBCによると、円安のせいもあって、日本企業が提示する給与額は、たとえばシンガポールで働くよりも低水準であるという。