“プリウス成功に続くか?” トヨタFCV「ミライ」に海外から期待

 トヨタは17日、開発中の量産型FCV(燃料電池自動車)の名称を発表した。翌18日に明かされた販売計画によると、「Mirai(ミライ)」と名付けられた次世代のエコカーは、670万円(税込723万6000円)で、12月15日に国内販売が開始される。ブルームバーグによれば、政府は300万円程度の補助を計画している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)などが、今後のグローバル市場での展開を含め、このニュースを伝えている。

◆「水素社会」を目指す政府も積極支援
「Mirai」の名称は、豊田章男社長が英語でプレゼンテーションする公式動画で発表された。それによれば、「テストコースでの何100万マイルにも及ぶ走行」「極寒と灼熱の公道での10年間に渡るテスト」「広範囲の衝突実験」を経て、満を持して販売を決定したという。自らテストドライバーとしてハンドルを握った豊田社長は、「重心が低く、鋭いハンドリングが可能だ」と“Fun to drive”の面でも自賛している。

 トヨタの発表を販売面に着目して伝えたブルームバーグの記事によれば、約724万円の国内販売価格に対し、政府は一部地域で300万円程度の補助を計画しているという。これは、三菱の電気軽自動車「i-MiEV」の3倍以上で、現在、中国、アメリカ、ヨーロッパで行われているエコカー購入補助よりも額が大きいという。

「Mirai」は、水素燃料とバッテリーに蓄えられた電気によって駆動するFCV(水素燃料電池車)だ。排出するのは純粋な「水」だけだとされている。

 ブルームバーグは、安倍首相が日本に「水素社会」を作ると宣言した件を取り上げ、FCVに寄せる政府の期待の大きさにも言及している。その背景には、2011年の福島第一原発事故以来、石油の輸入が増加し、貿易赤字が拡大したことがあるという。環境面だけでなく、石油依存からの脱却=経済再生の切り札としても期待されているというのが、同メディアの見方だ。

◆vsホンダでもトヨタが一歩リードか
 FCVを開発しているのはトヨタだけではない。ホンダはトヨタの発表の直後に、5人乗りの新型コンセプトカーを発表した。ホンダは昨年の段階では2015年中に市販車を販売するとしていたが、2016年3月末までに延期された。WSJは「ホンダのエンジニアたちは、トヨタのコマーシャリズムの前に遅れを取った」と、スピード競争ではトヨタがリードしたと記している。

 一方、ホンダFCVの技術的なアドバンテージは、燃料電池が、車体前部のボンネット下に配置されていることだという。「Mirai」の燃料電池はシート下にある。そのため、共にセダンタイプでありながら、乗車定員はホンダが5人なのに対し、トヨタは4人に限られている。また、ホンダのレイアウトは、ガソリン車としてデザインされた既存の車体もFCVにコンバートしやすいというメリットもあるとWSJは記す。

 ホンダのFCV担当執行役員・三部敏宏氏はWSJに対し、「それ(販売のタイミング)が我々の戦いを左右するとは思わないが、個人的にはフラストレーションを感じている」と心情を語っている。同紙は、韓国のヒュンダイが今年6月に既に米カリフォルニア州でFCVをリース販売している事にも触れている。

◆安全性やインフラ整備に不安の声も
 FCVの普及に疑問を投げかける識者も多い。ブルームバーグによれば、自動車関連の研究機関・IHSは、FCVの生産台数が年間5000台に達するには2019年まで待たねばならず、2025年までに1万5000台を超えることはないと試算している。これに対し、トヨタは「Mirai」を来年700台生産、2020年代には年間数万台を目指すとしている。

 一方、バッテリー動力の電気自動車は来年、年間3万台以上の生産が見積もられている。米大手電気自動車メーカー、テスラ・モーターズ取締役会長兼CEOのイーロン・マスク氏も、FCV批判者の一人だ。同氏は特に、水素燃料の安全性を疑問視し、「自動車の燃料には不向きだ」と切り捨てている。

 水素燃料を供給するスタンドなど、インフラ整備の問題も指摘されている。トヨタはこの春、カリフォルニア州の水素スタンド運営会社への資金援助を決めた。今回の発表でも、米国北東部で水素燃料を供給する企業とのパートナーシップ締結計画を強調した。それによれば、同地域で「Mirai」が販売される2016年までに、各州に数十のスタンドを作るという(フォーブス誌)。

Text by NewSphere 編集部