“なぜ日本のウイスキーは美味しい?” ブレンダー技術、四季の変化…英愛飲家分析

 日本産ウイスキーの評価が高まっている。先日には、英ウイスキーガイドブック「ワールド・ウイスキー・バイブル2015」で、サントリーの「山崎シングルモルト・シェリーカスク2013」が初めて世界最高のウイスキーとの評価を受けた。

◆日本産ウイスキーはなぜ人気か?
 これまでも日本のウイスキーが全く評価されていない訳ではないが、「ワールド・ウイスキー・バイブル」の高評価は、その価値が日本国内だけのものではなくなったことを示している、と英デイリー・テレグラフ紙は報じている。

 一方、米オピニオン誌『アトランティック』は、日本のウイスキーメーカーがアメリカ市場へ大量生産による低価格商品を注ぎ込むことを控えてきたのは戦略だ、と報じている。同誌では、『ウイスキー・レビュアー(the Whiskey Reviewer)』のカート・メイトランド氏が、「自動車販売で得た戦略、つまり、カローラではなく高級車レクサスに重点を置いた手法を用いた」「そのことがより知名度を上げることに繋がった」(アトランティック誌)と述べた。

 また、同誌は日本ウイスキーの人気の広がりについて、全米都市ではカクテルバーが盛況で、バーテンダーたちは、客を引きつけるための新しく異なった種類の酒を試したがっているとも報じている。

◆日本ウイスキーのユニークさ
 ドリンク・ジャーナリストのトム・サンドハム氏は、「日本は、ウイスキーの品質を上げることに努力を続けてきた。スコットランドのウイスキーの伝統から多くを学び、しかし同時に、それに囚われない自由も楽しんだ」と日本ウイスキーの独自性について説明している。「スコットランドウイスキーは十分に進化した。その技術は、まだほとんど何も手がつけられていなかった日本のウイスキー造りを助けた。日本は必死でスコットランドを模倣し、その短い歴史の中で多くの先駆者を生んだ」(デイリー・テレグラフ紙)

 また、日本のウイスキーが、今のように多様で、巧妙にバランスのとれた酒となったのは、意図せぬ製造工程上の理由があった、と同紙は指摘。スコットランドでは、好みのブレンドにするために、蒸留所間で酒を融通し合う慣習がある。しかし、日本では決してこのようなことは行われなかった。そのため、自身の施設内で幅広い種類の酒を作る必要があったという。このことが、特にブレンダーの技術を熟練させたのではないかと推測している。

 さらに、スコッチモルト愛好家の会員制組織『ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ』の会員カイ・イバロ氏は、「日本は、四季がよりはっきりした気候だ。このことが熟成を早めているのかもしれない」と日本独特の気候が製造に影響しているのかもしれないと述べた。「日本のウイスキーが、実際の年月よりも年数が経ったものに思えることがあったり、しばしば木の香りがよくするのは、それが理由だろう」(デイリー・テレグラフ紙)

◆ハイボール人気の再燃
 上記とは別のデイリー・テレグラフ紙の記事は日本のウイスキー文化を分析している。記事は、日本ではウイスキーは、主に3つの理由から消費される、と指摘。まず、どこでも手に入ること、ステイタスシンボルとして、そして意識をすぐに失うことができるものとして、だそうだ。

 同紙は、消費者の趣向に沿った様々な酒が、自動販売機で購入できることや、高級飲食店で裕福な客が高いボトルをキープすることなどを紹介している。

 また、70年代、80年代は、サラリーマンの憂さ晴らしに酒が多く消費された、と同紙は報じている。このうえなく治安の良い東京で、数少ない危険は、駅や街角で酔っ払って転がっているサラリーマンに躓くことだった、と茶化した。しかし、景気が悪くなり、そのような光景も目にする機会が減った。また、若者は、軽めのアルコールやワインに好みが移り、日本のウイスキー市場は落ち込んだ。

 しかし最近では、経済が少しばかり明るさを見せ始め、景気の良かった80年代への郷愁が起こっていることもあり、消費が伸びている、と同紙は指摘。特にハイボール人気は再燃している。また、国際的に人気の作家、村上春樹の小説にウイスキーがよく出てくることにも触れている。

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Text by NewSphere 編集部