“貪欲”孫社長、『シュレック』のドリームワークス買収か 海外メディア報道加熱

 ソフトバンクは、ドリームワークス・アニメーション(DWA)買収の話し合いを進めていると、関係者が明らかにした。買収が決まれば、両社にとって、世界中の競合他社に勝つための新しい道を模索することになる。

【アリババ上場で資金が豊富なソフトバンク】
 DWAの買収は、投資家が、コンテンツ制作会社に新鮮な興味を持っている最近の流れだ、とフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。

 ソフトバンクの孫正義社長は8月初め、TモバイルUSを買収し米通信業界第3位のスプリントとの合併を試みたが、米当局の不信が募るなか断念した。そして同氏も今は、直接通信事業を拡大するよりも、携帯端末の契約者を引き寄せることのできるコンテンツ事業の獲得に主眼を置いているという。

 ソフトバンクは最近、株式の32%を所有する中国ネット通販大手アリババの株式上場がうまくいったこともあり、買収のための軍資金は潤沢なようだ。

 関係者は買収額の公表を控えている。米ハリウッド・リポーターによると、ソフトバンクは1株32ドルで買収を提案。買収額は34億ドル(約3700億円)にのぼる可能性がある、とロイターは推測している。話し合いは始まったばかりだが、ソフトバンクによるまったくの丸抱えというよりは、協力関係になるか、ソフトバンクがDWAに資金を提供するかだろう、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。

 岩井コスモ証券の川崎智明氏は、「買収によってソフトバンクは収益を増やすことができるだろう。また、モバイル端末利用者にコンテンツを提供することで、スプリントの利益にもなる」(ブルームバーグ)とみている。

【両社に好都合な買収】
 DWAは、比較的小規模だが、業界の経験が豊富な映画制作会社だという。ソフトバンクのような大企業に吸収されることになれば、投資家からのプレッシャーを防ぐことができる、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は買収の利点を挙げている。

 同社は、個々の作品の興行成績に株式価値が左右されてきた。歴史的作品とも言える、『シュレック』や『マダガスカル』などの大ヒットも生んだが、最近では不発が続き、2010年と比較すると、株価が半分ほどにまで落ち込んでいる。

 DWAのジェフリー・カッツェンバーグCEOは、テレビやネットでの画像配信、関連商品などへの展開を広げ、数本の映画作品のみに頼る経営を変えようと戦略をすすめてきた。しかし、ディズニーなどの大企業と競うには会社の規模が小さかった。また、『アイス・エイジ』を制作したブルースカイ・スタジオや『怪盗グルーの月泥棒3D』のイルミネーション・エンターテインメントなど、制作費を抑えても売上を伸ばしている小さな制作会社との競争もある(ウォールストリート・ジャーナル紙)。

 なお、DWAは、オリエンタル・ドリームワークスと共同プロデュースした『カンフーパンダ3』を2016年に公開予定だ。

【インフラを持つ強み】
 ブルームバーグは、孫氏は日本で最も貪欲な経営者だ、と評した。

 同氏は、2040年までにソフトバンクを市場価値200兆円、世界最大の企業にすると公言している。現在は10兆円ほどだ。また、可能性のある展開はいつでも心に留めているという(ウォールストリート・ジャーナル紙)。ソフトバンクは既に、1300以上の企業に投資している。

 SMBC日興証券の菊池悟氏は、「アメリカでのコンテンツ、メディア、インターネット事業は、世界的な事業拡大ができ、ソフトバンクが最も狙っている分野だろう」とみている。ソフトバンクは既にネットワークのインフラを押さえており、獲得したコンテンツを十分に活かすことができるからだ(ウォールストリート・ジャーナル紙)。

 ソフトバンクは7月、デジタルコンテンツ拡大のため、グーグルで上級副社長兼CBO(最高事業責任者)を務めていたニケシュ・アローラ氏を、同社のバイスチェアマンに迎えた。

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Text by NewSphere 編集部