ゴーン社長は強力過ぎる? 日産の幹部離脱が相次ぐ理由、海外メディアが分析
日産自動車のアンディー・パーマー副社長(51)が、15日までに辞任することが、2日に判明した。パーマー氏は、英高級車メーカー、アストン・マーチンの最高経営責任者(CEO)に就任する。パーマー氏は、カルロス・ゴーン社長直属の配下として、数々の重要な職務を担当していた。ゴーン社長の片腕といえる人物であり、後継候補の1人と目されていた。
日産では、今年7月にも、国外向け高級車ブランド「インフィニティ」部門のトップだったヨハン・ダ・ネイシン氏が辞任している。同氏はその後、米ゼネラル・モーターズの「キャデラック」部門のトップに就任した。
経営幹部の流出が続く日産に、海外メディアも注目している。
【ゴーン氏の15年間にわたる“長期政権”】
1999年に経営危機に陥った日産は、仏ルノーと資本提携を結び、「ルノー・日産アライアンス」を構築した。現在、ルノーは日産の株式の43.4%を保有し、日産はルノーの株式の15%を保有する関係だ。
同年、当時ルノーの副社長だったゴーン氏が、日産に最高執行責任者(COO)として送り込まれた。以来、15年間、ゴーン氏は日産を率いている。2001年には社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した。また2005年には、ルノーの取締役会長兼CEOにも就任した。
【ゴーン氏の“長期政権”の悪影響?】
日産と同じく、ゴーン氏がトップを務めるルノーでも、昨年8月、COOのカルロス・タバレス氏が辞任した。その後、氏は、仏の大手自動車メーカーで、ルノーのライバルであるPSAプジョーシトロエンのCEOに就任している。
「経営陣の入れ替わりは、ビジネスにつきものです」という日産のクリス・キーフ広報担当のコメントを、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(以下WSJ紙)は伝えている。実際に、先述のダ・ネイシン氏も、2012年にフォルクスワーゲン傘下のアウディから引き抜かれて来ていた。
しかし、日産やルノーから経営幹部が離れていくのは、ゴ-ン体制が長く続いたことが、特に影響しているのではないか、とする見方が、複数の海外メディアから提示されている。これには2つのポイントがある。
【後継者を育てる気があまりない?】
1つには、現在60歳のゴーン氏は、引退する時期を明言しておらず、またそのそぶりも見せていない。このため、他の経営陣のキャリアにとっては、行き詰まり状況になっている、とするアナリストの見解を、フォーチュン誌電子版は伝えた。
また同誌によると、昨年11月にゴーン氏が、日産社長としての自分の後任には、おそらく日本人がなるだろうと述べたために、パーマー氏の日産での見通しは閉ざされてしまったようだ。
WSJ紙は、ゴーン氏がこの先、後継者を育て上げることができるのか、また、最良の経営陣を保持することができるのかについて、懸念が持ち上がっている、と報じる。
【激務に対して報酬が見合っていない?】
もう1つのポイントは、精力的でアグレッシブなリーダーであるゴーン氏の下で働くことの大変さだ。フォーチュン誌は、ゴーン氏を「あまりに多くを要求する社長として有名」だと形容した。そして、おそらくはゴーン氏の強力なリーダーシップが原因で、日産とルノーの経営幹部は、早いペースで入れ替わる傾向がある、としている。
WSJ紙は、ゴーン氏の直属の配下らは、ゴーン氏が日産とルノーに対して設定した野心的な業績目標を達成しようと奮闘している、と伝える。それらの目標の中には、ほとんどのアナリストが達成は非現実的と見なしているものが含まれているという。
WSJ紙のブログ記事は、(サッカーW杯後の不況にあえぐ)ブラジルで、「ルノー・日産アライアンス」の乗用車・ライトトラック(バン、SUVなど)の8月の売り上げが、前年同月比で17%減少したことを伝えている。また、子会社を有するロシアでは、経済制裁の影響を受け、経済が衰退しかけているなど、国際市場の先行きが不透明であることを伝えている。目標の達成は、ますます困難になるものと見られる。
WSJ本紙は、日産の経営陣は、ゴーン氏の設定した目標を達成するために、非常なプレッシャーを感じている、との、元日産社員で英バークレイズ証券のアナリストである吉田達生氏のコメントを伝えた。
ゴーン氏自身は、役員報酬の低さが、人材流出の原因になりうるということを、以前から懸念していた。6月の株主総会でも、日本の役員は、職務に見合う十分な報酬を得ていない、ということが述べられていた。
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