“アベノミクスの犠牲者”? 米シティ銀、日本の個人業務撤退か 背景に海外注目

 米金融大手のシティグループが、日本のリテール(個人向け)銀行業務からの撤退、国内33ヶ所の個人向け拠点の売却を検討していると報じられた。日本有数の外資系銀行として数十年にわたり業務を行ってきたが、日本では実質ゼロ金利が続き、融資の伸びが低調にとどまっている。今後は法人向け銀行、投資銀行、金融取引業務に経営資源を集中していく方向だ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。

【世界規模での事業縮小】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によると、シティグループは金融危機後から事業の規模縮小、組織の簡素化を推進してきた。個人向け銀行業務では「最も成長がある分野」に注力、小規模都市や低成長国での事業を控える意向を示していたという。日本法人のシティバンク銀行は現在、国内33ヶ所で個人向け業務を行っており、預金量は3兆8556億円に上る。

 シティバンク銀行は、2009年にマネーロンダリング対策の不備、2011年には金融商品の不適切な販売で金融庁から一部業務停止処分を受けている。国内の関連機関との連携不足が指摘されてきた(WSJ)。その後ダレン・バックリーCEOの辞任など、経営陣を代え、事業売却や相次ぐ再編を通じて、すでに事業の縮小、立て直しを進めていた。

 2012年末にマイケル・コルバットCEO就任以来、ホンジュラス、トルコ、ルーマニア、ウルグアイ、パラグアイの個人向け業務から撤退した。最近ではギリシャとスペインの個人金融事業を売却することで合意するなど、世界規模での事業縮小を図っている。WSJによると、アジア支店は前年の570店舗から470店舗に減っている。

【事業の魅力と今後の懸念】
 シティバンクはすでに日本の大手銀行3社を含む10社ほどに、売却の打診を始めており、来月にも入札を始めたい意向だという。他企業にとって最大の魅力は、富裕な顧客層だ(フォーブス誌)。

 一方、顧客にとってはシティバンクのグローバルなネットワークが魅力のひとつであり、「邦銀に買収された後に顧客がそのまま残るかどうかは疑問」(大手行幹部)、とロイターは報じている。また金融当局の中には、シティグループとの提携などの「持参金」を付けないと、赤字のリテール事業の買い手は現れないのでは、という懸念も出ているという。

【外資系銀行の相次ぐ撤退】
 シティグループの撤退は、近年クレディ・スイスに個人向け銀行業務を売却したHSBCやスタンダードチャータード銀行の撤退に続く(WSJ)。

 フォーブス誌は、これに対し「アベノミクスの犠牲者」だろうか、と疑問を投げかけている。量的金融緩和政策による実質ゼロ金利の状況下で、為替預金の推進は得策だったと評価する。シティグループは、米ドル、ユーロ、豪ドルなどを高いレートで提供することで差別化を図り、ブランドを確立してきた。一方で競合企業が同様のビジネスモデルを取り入れ始めたことで、利益を上げることができなくなったと見ている。シティバンクの撤退は、日本の銀行市場に文化的、金融的に大きな溝をもたらすことになるだろう、と予測する。

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Text by NewSphere 編集部