三菱重工、最新鋭ステルス戦闘機F35の製造参加を見送り 資金面で政府と折り合わず

 最新鋭ステルス戦闘機F35の生産計画への三菱重工の参画が、当面見送られる見通しとなった。ロイターなどが伝えている。武器輸出三原則がこの春緩和されたのを受け、日本最大の兵器メーカーでもある三菱重工の動向には、海外メディアも高い関心を示している。

 民生部門についても同様で、6月にフランスの重工業大手アルストムの火力発電設備などエネルギーインフラ部門の買収に失敗したことは世界で報じられた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、買収失敗後の三菱重工の世界戦略について、社長にインタビューした記事を1日付に掲載している。

【国の補助金を巡りF35プロジェクトが停滞か】
 政府は2011年末にF35を航空自衛隊の次期主力戦闘機に選定し、42機の導入を決定した。その後、緩和前の武器輸出三原則の例外措置として、部品の製造・輸出に国内企業を参画させるプロジェクトを立ち上げ、IHIがエンジン部品、三菱電機がレーダー部品、そして三菱重工が胴体部分を製造・輸出する事となった。

 しかし、IHIと三菱電機は来年度から国内用・輸出用の部品の生産に着手することが決まったが、三菱重工に関してはまったくめどが立っていないという。国内向け部品を発注した防衛省及び輸出先の英BAE(F35の共同開発社)との契約が、暗礁に乗り上げているというのだ。

 この件を報じたロイターと朝日新聞の報道を総合すると、三菱重工が工作機械などの設備投資を試算し、100億円近くになることが判明。国の資金援助を求めたところ、政府内で意見が分かれたという。ロイターは財政赤字削減に取り組む財務省が難色を示しているとし、朝日新聞は防衛省が外国機向けの費用は負担しないとの立場から反対していると報じている。

 F35は米ロッキード・マーティン製で、英BAEなどと国際共同開発した。各国企業が製造した部品をアメリカ、イタリア、日本で組み立てる予定だ。三菱重工はこの組立ラインについては、小牧南工場(愛知県)を刷新することを決めている。国もこれに639億円を支出する(ロイター)。

【発電設備部門では仏企業の買収に失敗】
 三菱重工の全社的な業績は、今のところは上向き傾向にあるようだ。同社は先月末、今年度第一四半期の収益が65%アップして225億円に達したと発表。今年度の売上は19%アップの4兆円を見込んでいる。業績好調の牽引役は、エネルギー部門と環境部門で、昨年度は両部門で収益の半分、売上の37%を得たという(ブルームバーグ)。

 しかし、将来の見通しは決して明るいものではない。他の日本企業同様、国内市場の縮小は同社にも重くのしかかってくるだろうとWSJは記す。宮永俊一社長は同紙の記事中で、日本がインフラ整備に巨額な投資を重ねてきた時代は既に終焉に向かっており、三菱重工の機械やサービスに対する国内需要は減少傾向にあるという見方を示している。

 そのため、同社は現在、海外市場の拡大に力を入れている。独シーメンス社と組んで入札したアルストムの火力発電設備などエネルギーインフラ部門の買収はその核となるはずだったが、フランス政府から補助金を引き出すなどした米GEに敗北した。これで、世界市場における火力発電設備部門の2強(GE、シーメンス)の背中は遠のいたかに見えるが、宮永社長は記事中で「残念だが、それほど残念ではない」と語り、勝ったGEも厳しい条件での買収を強いられたため、まだ付け入る隙があると力を込める。

【日立・シーメンスとの共同事業が鍵か】
 三菱重工は、この買収失敗の直前に、日立製作所と合弁で火力発電事業会社「三菱日立パワーシステムズ」を発足させている。国内大手2社の力を結集して世界市場に打って出ようという目論見だ。アルストム買収に失敗した今、この部門で両社の完全合併も一部で取りざたされているが、宮永社長はWSJの問いかけに対し否定している。ただし、業績好調を伝えるブルームバーグの記事では、この三菱日立パワーシステムズが今後の成長の中心になるだろうと語っている。

 また、アルストム買収でタッグを組んだシーメンスとの関係強化も取りざたされている。宮永社長はWSJに対し、シーメンスとは「非常に良い相互補完的な関係にある」と語り、同社との関係を深めていくことを示唆した。社長は具体的な事業に言及することは避けたが、WSJは鉄道部門での協力が有力だとする専門家の見方を紹介している。アルストム買収計画では、シーメンスの鉄道部門とアルストムの発電設備部門の「交換」が提案された経緯や、高速鉄道車両の生産に実績のあるシーメンスと都市鉄道車両に強い三菱重工ならば「相互補完的」に事業展開できるというのが根拠だ。

 また、宮永社長は引き続き海外企業の買収に力を入れていくとし、具体的なターゲットは明言しなかったものの、比較的過小評価傾向にあるヨーロッパ、中東、アフリカの企業を視野に入れていると語った。その過程でもシーメンスとのパートナーシップがあるかも知れないと、同社長はWSJに答えている。

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Text by NewSphere 編集部