孫社長が放った逆転の一手 スプリントがTモバイル買収大筋合意か…米当局への説得材料とは

 ソフトバンク傘下でアメリカ第3位の携帯電話事業者スプリントが、同4位のTモバイルUSの買収で合意に近づいているようだ。買収価格や契約解除料など大筋の部分で合意に達した旨、匿名の事情通の話としてブルームバーグなどが報じている。

 早ければ7月中にも最終合意に達する見込みだが、合併成立には連邦通信委員会 (FCC)など米当局の承認が必要だ。欧米メディアはその点も含め、米通信業界の再編につながる買収劇に注目している。

【合併で米大手2社へ対抗か】
 スプリントとTモバイルは、1位AT&T、2位ベライゾン・コミュニケーションズに次ぐ米4大携帯電話事業者の一角。スプリントは昨年7月にソフトバンクが216億ドルで78%の株式を取得して買収した。同様に、Tモバイルは独ドイツテレコム傘下にある。

 ブルームバーグが「匿名希望の複数の事情通」の話として伝えたところによると、ソフトバンク(スプリント)とドイツテレコム(Tモバイル)との間で1株あたり40ドル弱、総額310億ドル程度で買収話が進んでいる。支払いは現金と株式の50%ずつで行われ、ドイツテレコムは継続して15%の株式を保有するといった条件だという。

 買収劇を主導するソフトバンクの孫正義社長の狙いは、ビッグ2のAT&T、ベライゾンに対抗するためのスケール(事業規模)を獲得するためだと識者らはみている。日本のアナリストの一人は、「携帯電話業界は投資が必要な業界だ。会社の規模は大きければ大きいほどいい」と、ブルームバーグの取材に答えている。

【当局の承認がなければ実現しない「リスキーなギャンブル」】
 買収・合併が実現すれば、米大手携帯電話事業者は4社から3社に減ることになる。これが利用者の利便性を損なったり、独占禁止法に触れる可能性もあり、「当局は慎重にならざるを得ないだろう」とUSAトゥデイは報じる。つまり、買収・合併には米連邦通信委員会(FCC)と司法当局の承認が必要なのだ。

 アメリカの通信アナリストの一人は、2011年に米当局がAT&TとTモバイルの合併を阻止した前例を挙げ、「私は今回も当局が阻止に動くと確信している」と同メディアの取材に答えている。しかし、最近ではAT&Tと米衛星放送最大手のディレクTVが合併で合意に達するなど、当局の態度も変わってきている、と指摘する識者もいる。

 ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、もし当局の承認が得られなければ、スプリント側がTモバイルに現金10億ドルなどの違約金を支払うことが契約条件に盛り込まれてるという。そのため、同紙は「これはスプリントにとってはリスキーなギャンブルだ」と記している。

【情勢の変化に勝機あり?】
 またWSJは、先月FCCが行った、2015年に予定されている電波オークションの規定の見直しが、今回の合併話の進展の裏にあると指摘する。従来の規定では、より小規模な事業者にチャンスを回すため、AT&Tとベライゾンは入札から除外される方針だった。それが直前のロビー活動により最大手2社の参入幅が広がり、保護される立場にあったスプリントとTモバイルにとっては不利な状況になったという。

 しかし、孫社長ら両社の関係者はこれを逆手に取り、「合併して競争力をつけなければ、ますます大手2社に対抗できない状況になった」という口実で当局に合併を承認させる突破口にしようとしているという。

 WSJは、FCCの委員の承認・反対の内訳を予想している。それによると、今のところ承認派は3人、反対派は委員長を含む2人だという。

 ソフトバンクなどの当事者とFCCは、いずれもこの件に関するコメントを拒否している。

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Text by NewSphere 編集部