“ロボット界のジョブズ”目指す高橋智隆氏、英BBCが注目 ヒト型スマホで生活が変わる?

 総務省が「次世代のスティーブ・ジョブズを探す」プロジェクトを打ち出した。独創的な人向け特別枠(通称「変な人」)プロジェクトは、「画期的な変化」や「世界レベルで新しい価値をもたらす」可能性がるアイデアを持つ企業を支援するプログラムだという。通常、変わり者があまり受け入れられない日本という国で、こうした動きが役所主導で起きたことにウォール・ストリート・ジャーナル紙等も注目し、記事に取り上げている。

 このプロジェクトは6月から始動するものだが、一足先に次のジョブズ候補として業界の先端を走っている日本人がいる。ロボットクリエイターの高橋智隆氏だ。

【鉄腕アトムが原点】
 高橋氏は、東京大学先端科学技術研究センターと自身の会社「株式会社ロボ・ガレージ」のふたつを拠点に開発を続けている。作品は数あるが、特に有名なのは、乾電池だけでグランドキャニオンを登りつめたり、はたまたハワイでトライアスロンを完走したりした「エボルタ」や、昨年ヒト型ロボットとして初めて国際宇宙ステーションに行き、若田光一氏とコミュニケーション実験を行った「キロボ」だろう。他にも、女性らしい形状と動きを実現した「エフティ」や、二足歩行ロボット特有の膝を曲げた動きを変えより人間に近い歩行を実現した「クロイノ」などがある。

 英BBCのインタビューによると、こうしたロボット達の原点となっているのは、子供のときに読んだマンガの「鉄腕アトム」だという。たまたま自宅にあった鉄腕アトムを読んで以来、ロボット科学者になるのが夢だったいう高橋氏は、いずれのロボットにも「より人間らしさ」を追求している。

「人は、ただの四角い箱と話したいとは思わないでしょう。生きていると感じられるものと話したいのです。だから人は動物とか、虫とか、ぬいぐるみとかに話しかけるでしょう。ロボットも同じです」

 より人間らしい動き、より生命を感じるコミュニケーションには、些細な部分が重要だと高橋氏は言う。アイコンタクトとか、首の動きとか、そういった小さなことがロボットに命を吹き込む反面、ほんのちょっとのおかしな動きで、一気に興ざめとなってしまうのだそうだ。「人間の美しさと機械の美しさを融合するのは非常に困難だけど、でもおもしろい。だから自分はずっとヒト型ロボットの追求にこだわっているのです」と高橋氏は語る。

【猛烈に働く】
 こうした動きを実現するため、設計図を作らずフリーハンドで造形していくのが高橋氏のやり方だという。そしてひたすら、切ったり塗ったりをひとりで作業するのだそうだ。プログラミングにも多くの時間を費やしているという。

 同インタビューによると、高橋氏の毎日はとにかく「仕事・仕事・仕事」のようだ。朝起きてエネルギードリンクを1缶飲み職場に向かい、昼食はカップ麺かエナジーバーのようなごく簡単なもので済ませ、家族と夕食を取るのはごくたまにだという。そのまま職場に泊ることもあり、週末や祝日も仕事だという。

「今は猛烈に働くときなのだと思っています。あと5年か10年もすれば、ロボット業界はより開発が進み、やるべきことは少なくなっているでしょう」と高橋氏は言う。他国に比べ日本はロボット工学が進んでいるが、それでもまだ未開発な部分が多く、小さな発明でも世界初となり得るところがまた、ロボット開発の魅力だという。

【次なるプロジェクトは】
 未来のスマートフォンは、ヒト型ロボットの形をしていると高橋氏は予言する。今まさに、自身が取り組んでいるプロジェクトだそうだ。

 その構想について高橋氏は「たとえばティンカー・ベルとか、ジミニー・クリケット(ピノキオに出てくるコオロギのキャラクター)のように”情報、サポート、アドバイスをくれる小さな生き物”といったところでしょうか」と語っている。本当にそんなものが実現するなら、なんともわくわくする話だ。

 高橋氏の夢は、ロボット界のスティーブ・ジョブズになることだとBBCに語っている。自身の発明を通し人々のライフスタイルまで創造したジョブズのように、人々が日常生活に「コミュニケーション・ロボット」を活用できるようになることが目標だという。

 次世代のジョブズ発掘を目指す総務省のプロジェクトからも、高橋氏のような人物が現れることに期待したい。

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Text by NewSphere 編集部